ポーランド・Adam Mickiewicz UniversityのPiotr Jabkowski氏らは、第10回欧州社会調査(ESS10)の結果に基づき、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に広まった各種の陰謀論を信じる人々の特徴を解析。「従来、陰謀論への傾倒の抵抗となると考えられてきた教育レベルの影響は、信心深さ(religiosity)によって弱められる一方、科学者への信頼(Trust in scientists)は教育による抑制効果を強化した。政治的指向(Political orientation)が陰謀論に与える影響はそれほど明確ではなかった」とSci Rep(2023; 13: 18116)に報告した。

さまざまな陰謀論は以前から存在

 陰謀論とは大きな社会的/政治的出来事が力のある少数の個人や組織によって密かに引き起こされたものだ、という考え方である。欧州には多数の陰謀論が存在し、社会不安や緊急事態下ではそのような言説が増える。2019年に中国・武漢から広まったCOVID-19パンデミックにおいても多数の陰謀論が台頭した(Psychol Personal Sci 2020; 11: 1110-1118Critic Sociol 2022; 48: 1005-1024)。

 Jabkowski氏らが今回の解析対象としたESS10は、2020年9月~22年9月に欧州26カ国で実施された。標準化された質問票による対面調査を原則としたが、COVID-19パンデミック中であったため、6カ国ではオンラインまたは紙面での自記式調査に変更された。15歳以上を対象とした、計5万5,555人のデータを収集した。本調査の全データはESSのデータポータルに公開されている。

陰謀論支持とワクチン接種完了、超過死亡数との関係を検討

 教育レベルは、国際標準教育分類(ISCED)により1(ISCED Ⅳ-Ⅵ:基準カテゴリー)、2(ISCED Ⅲ)、3(ISCED Ⅱ)、4(ISCED Ⅰ)の4段階で測定。

 信心深さは、全くない(0点)~非常に強い(10点)、科学者への信頼については、全くない(0点)~完全に信頼している(10点)、政治的指向については政治的立ち位置を左派(0点)~右派(10点)で回答してもらい、それぞれ回帰分析で国/回答者別のzスコアを求めて標準化した。

 また、COVID-19陰謀論に関しては、強く同意(1点)、同意(2点)、どちらでもない(3点)、否定(4点)、強く否定(5点)が選択肢として用意され、強く同意と同意を陰謀論支持、それ以外は不支持として解析した。

 さらに、COVID-19陰謀論支持との関係を検証するため、100人当たりのワクチン接種完了者(fully vaccinated)数と10万人当たりの累積超過死亡数を文脈変数(contextual variables)として解析に含めた。

信心深さは教育レベルだけでは克服しにくい

 解析の結果、個人(回答者)レベルのロジスティック回帰分析では、教育レベルが上がるにつれ、陰謀論支持が減るという過去の知見が裏付けられた。

 また、信心深さは陰謀論支持への傾倒と関連し(P<0.001)、科学者への信頼度は陰謀論支持の減少と関連した(P<0001)。政治的指向に関しては、右派で陰謀論支持の割合が多い傾向が見られた。

 さらに、国レベルの解析では、陰謀論支持の回答割合とワクチン接種率との負の相関、10万人当たりの超過死亡数との正の相関が観察された。

 今回の結果について、Jabkowski氏らは「教育レベルが上がるにつれて、陰謀論を信じる者が減るという従来の知見を確認できた」と考察。信心深さについては、陰謀論への傾倒を抑制する教育の効果を弱めることが明らかになったことから、「人々の教育レベルのみに基づく公衆衛生戦略やキャンペーンでは十分な成果が得られない可能性がある」と付言している。

木本 治