「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

オミクロン株が最後の変異株ではない
~ワクチン低接種国の根絶が不可欠~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第34回】

 2021年も年末になり、新型コロナウイルスの流行から2年が経過しました。そんな中、南アフリカなどで発生したオミクロン株が、世界的流行を起こす気配を見せています。この変異株の感染力はかなり強いようですが、感染しても無症状や軽症で済むことが多く、これを機に「流行が終息に向かうのではないか」という楽観論も聞かれます。しかし、新型コロナの流行はそう簡単に終わらないでしょう。今回はオミクロン株の実態とともに、流行終息への道を考えてみます。

オミクロンの表示と注射器=AFP時事

オミクロンの表示と注射器=AFP時事

 ◇4回目の世界流行に

 新型コロナウイルスのヒトへの感染は、19年12月に中国の武漢で発生しました。それから中国国内での流行を経て、20年3月から全世界的な流行になります。その後、20年12月には英国で発生したアルファ株が、21年4月にはインドで発生したデルタ株が世界流行を起こしました。そして今回、南アフリカを中心に発生したオミクロン株が、世界に拡大する気配を見せているのです。

 このように新型コロナの流行は、最初の武漢株の流行の後に、アルファ株、デルタ株と変異株の流行が続き、今回のオミクロン株が拡大すれば4回目の世界流行になります。今までも新型コロナの変異株は数多く発生していますが、世界的な流行になるためには、感染力が強いことが必須条件で、アルファ株、デルタ株はそれを満たしていました。オミクロン株についても、現在、世界流行しているデルタ株に比べて、感染力が強いことがほぼ明らかです。すなわち、今後、オミクロン株がデルタ株に代わって、世界流行することになるのでしょう。

 ◇英国連邦での変異株発生

 今まで世界流行した変異株の発生国を見ると、英国、インド、南アフリカといずれも英国連邦(Commonwealth of Nations)の国々でした。連邦内で変異株が発生したことは偶然なのでしょうが、発生国の流行が、まずは宗主国である英国に波及し、そこから世界に拡大していきました。アルファ株は英国で発生したから当然ですが、デルタ株発生のインド、オミクロン株発生の南アフリカは、いずれも英国と人流が盛んな国でした。

 ここで注目すべきは英国のEU離脱です。まさに新型コロナ流行の始まった20年1月の出来事でしたが、この影響で英国が連邦諸国との関係を強化したことも、変異株の拡大に関係しているのかもしれません。もっとも、英国のEU離脱がなければ、変異株はより迅速にヨーロッパに侵入していたことでしょう。

 ◇オミクロン株の実態

 オミクロン株は21年12月中旬の時点で、世界60カ国以上に拡大しており、その感染力の強さから4回目の世界流行を起こすのは時間の問題となっています。ワクチンの効果も少しずつ明らかになってきており、2回の接種だけでは感染や発症の予防効果がかなり低下しているようです。これは、日本や欧米で確認されている感染者の多くが、ワクチン接種者のブレークスルー感染であることからも想定されます。ただし、ファイザー社は、同社のワクチンの3回目接種を受けることにより、オミクロン株への防御効果が増強するというデータを発表しています。

 オミクロン株の病原性(重症度)に関する報告も少しずつ発表されており、ほとんどの感染者は無症状か軽症であるとのことです。この理由として、ワクチン接種者の感染が多いためとか、若者の感染が多いためとも言われていますが、オミクロン株の病原性が低いという解釈が最も合理的なようです。

 ◇流行は終息に向かうのか?

 オミクロン株の感染力が強く病原性が低いのなら、この変異株が世界的流行を起こすことで、新型コロナは普通のカゼのような状況になるという楽観的な説も聞かれます。しかし、今後、さらに感染力が強く、病原性も高い変異株が発生する可能性もあり、このまま新型コロナの流行が終息に向かうとはあまり考えられません。

 ただし、オミクロン株に多くの人々が感染すれば、無症状か軽い症状のまま、新型コロナウイルスへの免疫が増強されていくでしょう。その結果、社会全体の免疫が一定以上に保たれ、新たな変異株が出現しても、その拡大を防ぐことができるかもしれません。この結果、新型コロナの流行が終息に向かう可能性もあります。

 こうした社会全体の免疫を高めて流行を終息させるという方法は、ワクチン接種によっても成し遂げられます。この方法は、オミクロン株に感染して免疫を付けるよりも、ずっと確実だと思います。

 ◇オミクロン株の日本流行はいつ?

 日本ではオミクロン株の侵入を防ぐために水際対策が強化されていますが、いずれは国内に侵入し、市中感染を起こすことになるでしょう。では、その時期はいつなのか。

 国内では第6波の流行が、冬の到来とともに始まると予想されていますが、これは国内に残っているデルタ株によるものになるでしょう。現在、欧米諸国や韓国などでは冬の流行が始まっており、これもデルタ株の流行です。日本でも、まずはデルタ株を拡大させないように年末年始にかけては予防対策を強化するとともに、ワクチンの追加接種を早めに開始することが必要です。

 そして、来年の早い時期に、次の流行としてオミクロン株が拡大すると思います。それまでに多くの国民がワクチンの追加接種を終えていれば、小規模な流行で収束させることができるでしょう。

新型コロナウイルスについて啓発する芸術作品の前を行き交う南アフリカの人々=ヨハネスブルク郊外の旧黒人居住区ソウェト=EPA時事

新型コロナウイルスについて啓発する芸術作品の前を行き交う南アフリカの人々=ヨハネスブルク郊外の旧黒人居住区ソウェト=EPA時事

 ◇終息は世界的なワクチン接種後

 このように、新型コロナの終息にはワクチン接種が必須です。日本や欧米諸国などでは既に多くの国民がワクチン接種を受けており、その追加接種を行う段階にあります。その一方、アフリカなどの貧しい国ではワクチンを全く受けていない人が、かなりの数に上ります。世界保健機関(WHO)によれば、アフリカ全体のワクチン接種完了率は8%と大変低いのです。

 今後、こうしたワクチン接種率の低い地域で、新たな変異株が出現する可能性は高く、流行終息のためには、日本や欧米諸国が協力してアフリカなどでの接種率を高めていく必要があります。これには資金的な援助だけでなく、人的な面を含めた広範囲な支援が求められています。

 流行終息のため、国内の対策だけでなく、海外にも目を向ける時期になってきました。(了)


濱田篤郎 特任教授

濱田篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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