「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

コロナ流行は「制御期」から「安定期」へ
~来年夏・冬に再び拡大か~ (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第55回】

 新型コロナウイルスの流行が始まってから3年が経過しています。この間に私たちはさまざまな感染対策を駆使し、2022年末までに流行をある程度は制御できる状況にしました。ただし、新型コロナの制御にはまだ課題も多く、インフルエンザのような安定した流行には至っていません。23年は流行が安定するために、さらなる対応が必要になるでしょう。今回は流行3年目までの総括と4年目の流行予測について解説します。

東京・渋谷のスクランブル交差点=2022年1月EPA時事

東京・渋谷のスクランブル交差点=2022年1月EPA時事

 ◇22年は「制御期」に入った

 新型コロナウイルスが中国の武漢で発生してから3年が経過しました。この間に甚大な健康被害が発生しただけでなく、社会や経済にも大きな影響が生じたことは説明するまでもありません。現在までに日本では、人口の2割以上に当たる2700万人が感染し、5万4000人以上の方が亡くなったのです。

 このウイルスは人類にとって未知の病原体でした。このため、流行が始まった直後は、感染者の隔離や検疫の強化といった、中世のペスト流行時と変わらぬ古典的な対策により、被害の拡大を抑えてきました。しかし、20年春の時点で、新型コロナは世界的流行(パンデミック)の状況にまで至ったのです。この流行発生から20年末までの時期は新型コロナの「発生・拡大期」と呼べるでしょう。

 やがて21年になると、ワクチンや治療薬が開発され、現代医学の手法が感染対策に少しずつ使われるようになります。しかし、21年は感染力の強い変異株が次々に発生し、その都度、想定外の大流行を起こしました。こうした状況から、21年は「変異株発生期」と位置付けられると思います。

 そして22年は、前年末に発生したオミクロン株が1年を通して流行しました。BA.2やBA.5など、亜型の発生はありましたが、ウイルス側の変化は比較的落ち着いていました。感染対策については、ワクチン接種率の向上や経口治療薬の開発などがあり、感染者は発生するものの、重症化する者は少なくなりました。その結果、この年の春以降、日本を含む世界各国は感染対策の緩和にかじを切ります。このように22年は、流行拡大をワクチンや治療薬など、現代医学の手法で抑え込む「制御期」に入ったと捉えることができます。

 ◇23年の目標は「安定期」

 「制御期」と言っても流行の収束は難しく、私たちは新型コロナと共存していかなければなりません。このためには、「制御期」の次の「安定期」に入ることが必要で、これが23年の目標になります。

 現在の「制御期」は、流行の拡大を抑えながら社会や経済を動かす時期と言えますが、新型コロナの流行には不安定な面が数多くあります。例えば、現時点で流行の季節性が明確でないため、常に感染対策を実施しなければなりません。この良い例がマスクの着用です。また、重症化する者が少なくなったことは確かですが、これを維持するには、ワクチン接種率を一定レベルに保つことや治療薬の流通を向上させることが必要なのです。

 こうした課題を解決していけば、インフルエンザのように季節性のある流行になり、「安定期」へ移行できると思います。

 ◇「安定期」のための課題

 「安定期」に移行するために検討すべき課題は三つあります。

 一つはウイルスの感染力の問題です。現在のオミクロン株は感染力が従来株よりもさらに強く、それはインフルエンザの3倍以上になります。こうした強い感染力が不安定な流行の原因であり、感染力を低下できれば、より季節性の高い流行になるでしょう。その方法にはワクチンや自然感染による免疫がありますが、この免疫は時間とともに減衰します。また、最近のオミクロン株の亜型は、この免疫から逃避する方向に進化しているようです。そこで、免疫レベルを一定に保つためにワクチンの定期接種が必要ですし、より長期的効果を獲得できるワクチンを開発することも考えなければなりません。

 二つ目はウイルスに感染した場合の重症度です。現時点ではワクチン接種や経口治療薬の服用により、重症化はかなり抑えられています。この状態を維持していくためにも、ワクチンの定期接種は必要ですし、経口治療薬については、その入手をより円滑にすることが求められます。また、重症度に関連して、新型コロナ感染後の後遺症についても、その原因解明や治療法の確立が今後の重要な課題になっています。

 もう一つは対策緩和の進め方です。現在、政府では新型コロナ感染症法上の分類を、二類相当から変更することを検討しています。この点に関しては、前回の本コラムで解説したので詳細はそちらをご参照ください。こうした法律的な面を別にして、新型コロナの対策緩和に当たっては、流行が落ち着いている時期と拡大している時期の二つを想定した、臨機応変な対応が求められると思います。特に23年は不安定な流行がまだ続くと考えられるため、それを前提にした緩和を検討すべきです。

収容人数の制限を解除したサッカーJリーグの試合=2022年5月

収容人数の制限を解除したサッカーJリーグの試合=2022年5月

 ◇具体的な23年の流行予測

 それでは、23年が「制御期」から「安定期」に円滑に移行していくとして、具体的にどのような流行になるかを予測してみましょう。

 まず、現在の第8波の流行は23年の春先には収束するでしょう。ただし、感染者数が1万人以下になることはないと思います。この時期に政府は、新型コロナ感染症法上の新たな位置付けを決めることになるでしょう。また、流行が一段落してきたということで、マスク着用の基準緩和も発表されると思います。

 こうした流行の落ち着いた時期がしばらく続いた後、夏頃に再び感染者数の増加が起きると考えます。日本では過去3年、新型コロナの大流行が夏にも起きてきました。これは、その時に流行している変異株の特徴にもよると思います。この夏の感染者数増加の後に流行は落ち着きますが、秋以降は再び感染者数が増加し、本格的な冬の流行になると予想されます。

 ワクチン接種については、23年も冬の流行前の接種は必要だと思います。この時点で流行しているウイルスに対応したワクチンを使用することになるでしょう。夏の流行前に接種するかどうかは現時点で分かりませんが、高齢者などハイリスク者は接種する可能性があります。

 以上の23年の流行予測は、あくまでも円滑に「安定期」へ移行すると仮定してのものですが、現在の「制御期」のまま、不安定な状態で経過する可能性もあります。いずれにしても、完全な「安定期」に至るまでには、まだ数年はかかると考えます。流行4年目に入り、国民の皆さんも大変お疲れのことと思いますが、新型コロナとの共存に向けた動きは、「制御期」から「安定期」へと前進していくはずです。(了)


濱田篤郎 特任教授

濱田篤郎 特任教授

 濱田 篤郎 (はまだ あつお) 氏

 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

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