鶏卵と牛乳は即時型食物アレルギーの原因食物の上位2品目で、特に小児では割合が多く、普段の食事に悩む保護者は少なくない。長年、経口免疫療法が行われてきたが、安全な実施法は確立されていなかった。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する小児と青年に対し、食物経口負荷試験の閾値を基に開始量と増量を設定した5群で経口免疫療法を実施。その結果、従来法に比べ閾値の100分の1量から開始し10分の1量で維持する方法では、2回目の食物負荷経口試験の閾値上昇人数が有意に多く、アナフィラキシー症状は発生しなかったとClin Exp Allergy(2023年9月28日オンライン版)に報告した。
閾値の1万分の1~10分の1で開始
食物経口免疫療法に関しこれまでさまざまな報告がなされているが、一般診療で実施できるものではなく、摂取時、摂取後の体調や摂取量によりアナフィラキシーが誘発されることもあり、適切な実施法の確立が課題となっていた。
大矢氏らは、鶏卵または牛乳の食物アレルギーを有する4~17歳の小児・青年217例を対象に、経口免疫療法の至適開始量と維持量を検討した。同センターの外来で1回目の経口負荷試験を受けた後、閾値を基に原因食物の開始量と維持量を設定した5群(表)に分けて経口免疫療法を実施。電子カルテデータを分析し、安全性と有効性を比較した。
表. 開始量と維持量のパターンによる分類
アレルギー診療専門家の救急対応を準備した上で実施を
検討の結果、従来法のD群に比べ極微量開始維持法のB群では、2回目の食物経口負荷試験の閾値が上昇した患者の割合が有意に多く(56.8% vs. 88.2%、P<0.001、図-A)、食物特異的IgE値が上昇した割合は、完全除去のE群よりB群で有意に多かった(61.1% vs. 93.8%、P<0.05、図-C)。また、D群に比べ、微量開始維持法のA~C群は有害事象を経験した患者が有意に少なかった(D群70.5% vs. A群24.2%、B群13.7%、C群29.4%、図-B)。A~C群で確認された有害事象は、ほとんどが口や喉の痒みといった軽微な症状でアナフィラキシーは認めらなかった一方、D群ではアナフィラキシーを含むアレルギー症状が認められた。
図. 累積耐量増加と有害事象、食物特異的IgE減少を認めた患者割合
(表、図とも国立成育医療研究センタープレスリリースより)
今回の結果から、大矢氏らは「従来法に比べ微量開始維持法の安全性と極微量開始維持法の有効性が示された」と結論。一方、経口免疫療法中に軽微だが症状が発症しているため「今回の治療法をそのまま実臨床で実施するのではなく、患者の症状や重症度、合併症を考慮し、症状出現時の緊急対応としてアレルギー診療を熟知した専門家と連携した上で慎重に実施してほしい」と付言している。
(平吉里奈)