オーストラリア・St. Vincent's Institute of Medical ResearchのMichaela Waibel氏らは、診断後100日以内の1型糖尿病患者にJAK阻害薬バリシチニブを48週間投与するプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)の結果をN Engl J Med(2023; 389: 2140-2150)に報告。「バリシチニブ4mg/日の投与により、食事負荷試験(MTT)中のCぺプチド値で評価した膵β細胞機能(インスリン分泌能)が、プラセボ群と比べ有意に維持される可能性が示された」と述べている。
CD8陽性T細胞とβ細胞の免疫シナプス形成阻止
対症療法から疾患修飾(disease modification)的介入への移行により、多くの自己免疫疾患の転帰が大きく改善した。しかし内分泌疾患においては、臓器障害が不可逆的な段階まで進行するとホルモン置換療法しか選択肢がなく、1型糖尿病も例外ではない。1型糖尿病と診断された時点で残存している膵β細胞機能が維持できれば、血管合併症や重症低血糖を回避できるとの報告がある(Diabetes Care 2021; 44: 390-398)。
1型糖尿病における自己反応性のCD8陽性T細胞は、膵β細胞表面のHLAクラスI分子に提示された自己抗原に結合し、活性化される。CD8陽性T細胞とHLAクラスI分子との相互作用にはJAKを介した細胞内シグナル伝達が関与しており、JAK1/2阻害薬がβ細胞とCD8陽性T細胞の免疫シナプスの形成を阻止し、膵β細胞の死を防ぐことができるとしたマウス実験の報告もある(Diabetes 2017; 66: 1650-60)。
バリシチニブは関節リウマチや円形脱毛症、さらに重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に使用されているJAK1/2阻害薬である。
Cペプチド値が有意に上昇、血糖変動も改善
今回の試験は2020年11月~22年2月に、オーストラリアの4施設で実施された。対象は診断から100日以内の10~30歳までの1型糖尿病患者。膵島自己抗体が1つ以上あり、随時Cペプチド値が0.9ng/mL以上または、2時間MTT中のCペプチド値が0.6ng/mL以上を登録基準とした。
対象は91例(バリシチニブ群60例、プラセボ群31例)で、平均年齢はそれぞれ18.5±5.7歳 vs. 18.7±5.9歳、18歳未満は32例(53%)vs. 17例(55%)、男性は39例(65%)vs. 16例(52%)で、その他の因子を含めてベースラインの患者背景に両群で差はなかった。
主要評価項目である48週時点のMTT中の平均Cペプチド値の中央値は、プラセボ群の1.30ng/mL/分(四分位範囲0.39~2.48ng/mL)に対しバリシチニブ群では1.96ng/mL/分(同0.93~2.48ng/mL)と有意に高かった(P=0.0001)。
副次評価項目である1日のインスリン用量は、プラセボ群0.52U/kg(95%CI 0.44~0.60U/kg)vs. バリシチニブ群0.41U/kg(同0.35~0.48U/kg)、平均HbA1cは、それぞれ7.5%(同6.9~8.0%) vs. 7.0%(同6.6~7.4%)だった。
また、持続グルコースモニター(CGM)による血糖値の変動係数平均値はプラセボ群の33.8%(95%CI 31.5~36.2%)に対し、バリシチニブ群では29.6%(同27.8~31.3%)だった。Time in Range〔TIR:血糖値が70~180mg/dLの範囲にある時間の割合(%)〕は、バリシチニブ群で48週目まで一貫して高かった。
有害事象の頻度と重症度に両群で差はなく、試験薬またはプラセボが原因と考えられる重篤な有害事象はなかった。
経口薬での成果に意義
以上の結果を踏まえ、Waibel氏らは「バリシチニブ群における血糖値の変動幅の低さとTIRの高さは、インスリン必要量(1日のインスリン用量)の減少と一致した結果である」と結論。
さらに同氏らは「48週時点のCぺプチド値はプラセボ群に比べバリシチニブ群で約48%の増加が見られた。これは現在、1型糖尿病患者に対する最も有効な疾患修飾的介入と考えられている、低用量抗胸腺細胞グロブリン(Diabetes Care 2018; 41:1917-1925)やゴリムマブ(N Engl J Med 2020;383: 2007-2017)、tepliuzumab(Diabetes 2013; 62:3766-3774)と同程度の効果量であるが、いずれも静注や皮下注による投与が必要だ。小規模ではあるが本試験では経口薬のみで同等の結果が得られた」と結果の意義を強調している。
(木本 治)