日本では今年(2023年)11月に発売された、新規脂質異常症治療薬である低分子干渉RNA(siRNA)薬インクリシランの長期安全性データが明らかとなった。米・Mayo ClinicのR. Scott Wright氏らは、同薬の安全性を検証する目的で臨床試験7件の事後解析を実施。その結果、治療関連有害事象(TEAE)の発生率はプラセボ群と同程度であり、最長6年の安全性が示されたとJ Am Coll Cardiol(2023; 82: 2251-2261)に報告した(関連記事:「新規siRNA薬、日本人患者のLDL-Cを低下」)。
約5,500例が対象
対象は、インクリシランに関する臨床試験7件(完了済みのORION-1、3、5、9、10、11および進行中のORION-8)に参加した脂質異常症患者5,544例。各試験とも、インクリシラン300mgまたはプラセボのいずれかを1日目と90日目に投与し、その後は6カ月ごとに最長1.5年まで皮下投与した(ORION-1では1日目と90日目のみ)。
非盲検継続投与(OLE)試験のORION-3、5(part Ⅱ)、8では、インクリシラン300mgを1.5〜4年にわたり年2回投与された患者も含めた。最終データベースロックはORION-8の2022年3月9日だった。
TEAE、異常検査値、抗薬物抗体について、曝露調整後発生率(EAIR)およびKaplan-Meier推定値を算出した。
心血管系イベントはインクリシラン群で低値
最長6年インクリシランを投与したインクリシラン群は3,576例(平均年齢63.5±10.32歳)、最長1.5年プラセボを投与したプラセボ群は1,968例(同63.6±10.22歳)だった。曝露期間はそれぞれ9,982.1人・年、2,647.7人・年だった。ベースラインにおける患者特性に両群で差はなく、ともに動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の有病率が高く(インクリシラン群83.6%、プラセボ群84.1%)、スタチン治療歴が多かった(同91.1%、90.7%)。平均曝露期間はそれぞれ2.8±1.1年、1.3±0.3年だった。
Kaplan-Meier解析の結果、重篤または投与中止に至ったTEAEの発生率は投与開始後1.5年まで両群で同等だった。1件以上の重篤なTEAE発生率は、インクリシラン群が32.2%、プラセボ群が22.1%で、100人・年当たりのEAIRはそれぞれ13.80(95%CI 13.01〜14.62)、18.14(同16.48〜19.93)だった。長期の解析が可能だったインクリシラン群では、1.5年以降も同様の割合でTEAEが発生した。
肝、筋肉、腎関連のイベント、糖尿病の新規発症、クレアチンキナーゼまたはクレアチニンの上昇についても、1.5年までの発生率は両群で同等だった。
主要心血管系イベントはプラセボ群に比べインクリシラン群で少なく、100人・年当たりのEAIRはインクリシラン群で3.79(95%CI 3.41〜4.20)、プラセボ群で6.75(同5.79〜7.83)だった。治療誘発性の抗薬物抗体の発現率は、インクリシラン群で4.6%とまれで、持続性のものは1.4%とわずかだった。投与中止に至ったTEAEとの関連も認められなかった。
以上の結果について、Wright氏らは「インクリシランによる長期治療を受けた脂質異常症患者において高い安全性が示された。同薬の長期的に一貫したLDL-C低下効果を踏まえると、今回のデータは心血管リスクが高い脂質異常症患者における長期使用を支持するものである」と結論している。
(今手麻衣)