イラン・Kerman University of Medical SciencesのMohammadreza B. Hasankhani氏らは、世界189カ国の1990~2019年における糖尿病の発生率、死亡率、死亡率対発生率(MIR)の傾向を調査する縦断研究を実施した。その結果、世界の平均糖尿病発生率に大幅な上昇傾向が見られ、人口10万人・年当たり3.73件増加したことが示された一方で、平均死亡率は2005年まで上昇傾向をたどったものの、以降は人口10万人・年当たり0.14件減少し低下傾向にあるとSci Rep( 2023; 13: 21908)に報告した(関連記事「世界で小児糖尿病が増加、年間23万人」)。

国の発展度合いも考慮して解析

 これまで、世界のさまざまな地域における糖尿病の発生率と死亡率に関する研究が行われており、糖尿病の世界的な増加傾向が報告されてきた。しかし、こうした研究の多くが記述的研究や横断研究であり、国の発展度合いや地理的影響を考慮していなかった。

 そこでHasankhani氏らは、世界の糖尿病の発生率と罹患率を調査し、発展の度合いが与える影響を特定する目的で、保健指標評価研究所(IHME)のGBD(世界疾病負荷研究)データベースを用いて1999~2019年における世界の10万人・年当たりの糖尿病の年齢調整発生率、死亡率を抽出、MIRを算出した。

 その後、限界モデリングと一般化推定方程式 (GEE) 法を使用して、糖尿病の発生率、死亡率、およびMIR に対する国の発展度合いの長期的な影響を評価した。発展度合いの評価には国際連合開発計画(UNDP)の人間開発指数(HDI)を用い、0.788未満を発展途上国、以上を先進国とした。

死亡率は高所得国でのみ一貫して低下傾向

 分析の結果、30年間で糖尿病の発生率は全ての地域において大幅に上昇していた。

 死亡率を見ると、ラテンアメリカ、カリブ海諸国(LAC)はほぼ横ばいであり、高所得国(HI)では低下傾向にあった一方で、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、中央アジア(CEECA)、南アジア(SA)は上昇傾向を示していた。北アフリカ、中東(NAME)は1990~2006年にかけて上昇傾向にあったが、それ以降は低下傾向であった。東南アジア、東アジア、オセアニア(SAEAO)は1990~2006年にかけて大幅な上昇傾向にあったがそれ以降は横ばいに落ち着いた。サハラ以南アフリカ(SSA)も1990~2004年にかけて緩やかに上昇していたが、以降は安定していた。

 MIRは、CEECAおよびSAでは大きな変化はなく推移していたが、他の地域では低下傾向が観察された。

 発展途上国と先進国別に見ると、先進国に比べ発展途上国では発生率は低いが、死亡率とMIRは高かった。

発展途上国の死亡率が2006年以降微減

 続いて、線形GEEモデルを用いて糖尿病の発生率、死亡率、MIRの平均傾向を評価すると、平均死亡率は全ての地域で非線形パターンを示したため、2005年をピークとするスプラインモデルを用いて糖尿病の死亡率の傾向を解析した。

 その結果、1990年時点での平均発生率は、発展途上国に比べ先進国では10万人・年当たり約3件多いことが示された。さらに、発展途上国における平均発生率は先進国の傾向とほぼ同様の上昇傾向であることが分かった。全体で見ると、1990年には糖尿病発生率は10万人・年当たり約213.96件で、1990年から2019年にかけて10万人・年当たり3.73件の増加が示された。

 平均死亡率は、発展途上国において2005年までは10万人・年当たり0.62件増加し上昇傾向をたどったが、それ以降は10万人・年当たり0.02件の低下傾向になった。先進国の死亡率の傾向は、30年間ほぼ一定だった。全体で見ると、2005年までは10万人・年当たり0.43件増加し上昇傾向をたどったが、それ以降は0.14件減少し低下傾向をたどった。

 発展途上国の平均MIRは、1990年には先進国の約1.8倍だった。先進国の平均 MIR の推定傾きは低下傾向をたどっており、1990年から2019年にかけて発展途上国の平均MIRの半分程度だった。 全体で見てもMIRは大幅に低下していた。

不健康なライフスタイルと診断機会の増加が発生率上昇の要因

 今回の結果について、Hasankhani氏らは「1990年から2019年にかけて、糖尿病の世界平均発生率において先進国と発展途上国の両方で上昇傾向が示された」と結論。発生率の上昇について、肥満運動不足、不健康な食習慣の他、高齢化や診断機会の増加や診断技術の向上を原因として指摘した。2005年以降の死亡率低下に関しては糖尿病合併症の減少や、主に発展途上国における教育や血糖のモニタリング、治療の改善のためだと考察。

糖尿病の発生率は上昇し、世界で最も重要な健康上の懸念であることが示された。各国は費用効果の高い糖尿病予防を実現するため、国民の健康意識を高めて活動的なライフスタイルや栄養改善を促進し、診断や治療へのアクセスを増やすようなプログラムの実施が必要だ」とまとめている。

(平吉里奈)