イタリア・Foundation I.R.C.C.S Carlo BestaのCarlo Antozzi氏らは、全身型重症筋無力症(gMG)に対する胎児性Fc受容体(FcRn)阻害薬nipocalimabの第Ⅱ相多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)Vivacity-MGの結果をNeurology2024; 102: e207937)に発表。nipocalimabは安全で忍容性が高く、患者の日常生活動作(ADL)を改善させたことを報告した。

第Ⅰ相試験ではIgGを最大85%まで低減

 MGは、自己抗体の産生により神経筋接合部におけるアセチルコリンの伝達障害を来し、筋力低下を呈する免疫グロブリン (Ig)G自己抗体媒介性疾患である。治療はステロイドや免疫抑制薬などの免疫療法が主体となるが、近年、効果不十分例に対する新たな選択肢として分子標的薬が相次いで登場している。日本では補体C5を標的としたエクリズマブ、ラブリズマブ、ジルコプランの他、血中IgG抗体濃度の保持に関与するFcRnを標的としたエフガルチギモド、ロザノリキシズマブなどが使用可能となっている。

 nipocalimabはFcRn阻害薬であり、第Ⅰ相試験において単回および週1回の投与で、血中IgG濃度を最大85%まで迅速かつ用量依存的に低下させ、有害事象はプラセボ投与と同程度であった。

有効性は重症筋無力症-ADLスコアの変化を評価

 Vivacity-MGでは、gMG患者に対するnipocalimabの安全性と有効性の評価を目的に、各用量における薬物動態と薬力学を評価した。

 対象は、欧米8カ国38施設で登録した標準治療で効果不十分なgMG患者68例。プラセボを2週ごとに静脈内投与する群(プラセボ群、14例)、nipocalimabを4週ごとに5mg/kg(5mg/kg Q4W群、14例)、4週ごとに30mg/kg(30mg/kg Q4W群、13例)、2週ごとに60mg/kg(60mg/kg Q2W群、14例)、単回で60mg/kg(60mg/kg単回群、14例)それぞれを静脈内投与する群に1:1:1:1でランダムに割り付けた。盲検状態を維持するため、全群に2週ごとにプラセボまたはnipocalimabを投与し、8週間継続した。

 安全性の主要評価項目は、重篤な有害事象および特記すべき有害事象を含む治療関連有害事象(TEAE)の発生率とした。

 有効性の主要評価項目は、57日目における重症筋無力症-ADL(Myasthenia Gravis Activities of Daily Living;MG-ADL)合計スコアのベースラインからの変化量とした。57日目における変化の用量反応性は、プラセボ群、5mg/kg Q4W群、30mg/kg Q4W群、60mg/kg Q2W群で線形傾向検定により解析した。

 試験は2018年12月18日に開始し、最初の患者の薬剤投与は2019年4月10日、最後の患者の診察は2020年6月25日に行われた。

用量依存的にADLが改善

 検討の結果、人口統計学的特性およびベースライン特性は、全群で同等だった。68例のうち64例(94.1%)が抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性で、4例(6%)が抗筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性だった。57例(83.8%)が57日目までの治療を完遂した。

 TEAEの発生率は、nipocalimab群で83.3%、プラセボ群で78.6%と同程度だった。nipocalimab投与の4群間、または個別に報告された好発期間において、全てのTEAEの発生率に関連性は認められなかった。

 感染症の発生率はnipocalimab群で33.3%、プラセボ群で21.4%と同程度で、最も多く見られたのは鼻咽頭炎だった。nipocalimab投与に関連する死亡および投与中止はなく、特記すべきTEAE(Grade 3以上の感染症、低アルブミン血症)も認められなかった。

 57日目のMG-ADLスコア(高スコアほど重症)のベースラインからの平均変化量は、プラセボ群の-1.8±3.22に対し、5mg/kg Q4W群が−2.5±2.41、30mg/kg Q4W群が−3.9±3.00、60mg/kg Q2W群が−3.9±3.66と、有意な正の用量反応関係が認められた(P=0.03)。

 以上を踏まえ、Antozzi氏らは「第Ⅱ相試験においてnipocalimabは全般的に安全で忍容性が高く、投与57日時にはMG-ADLスコアの用量依存的な低下を示した。これらの結果は、gMG治療薬としてのnipocalimabのさらなる評価を支持するものである」と結論している。

(今手麻衣)