低血糖と心血管(CV)イベントとの関連は繰り返し指摘されているが、両者は因果関係にあるのか、それとも高リスク患者を同定するマーカーであるのかは不明である。ドイツ・RWTH Aachen UniversityのNikolaus Marx氏らは、DPP-4阻害薬リナグリプチンとプラセボを比較したCARMELINA試験および、リナグリプチンとSU薬を比較したCAROLINA試験の事後解析の結果をJAMA Cardiol(2024年1月3日オンライン版)に発表。「CARMELINAでは低血糖とCVアウトカムとの間に双方向の関連が認められたが、CAROLINAでは認められなかった」と述べている。
両者の関連を双方向で評価
両試験の主解析結果は既に報告されている(関連記事:「リナグリプチンの心血管安全性を証明」、「リナグリプチンとSU薬の心血管安全性は同等 」)。CAROLINA試験に比べCARMELINA試験の参加者の方が2型糖尿罹病期間が長く、CVリスクは高い。両試験とも主要評価項目は、主要CVイベント〔3ポイントMACE:CV死、非致死性心筋梗塞(MI)、非致死性脳卒中の複合〕の発生であり、今回の事後解析ではこれに心不全による入院(HHF)を加えた。
血糖値54mg/dL未満または介助を要する重症エピソードを低血糖と定義し、低血糖初回エピソードとその後の3ポイントMACE+HHFとの関連、および非致死性CVイベント(MI、脳卒中)+ HHFとその後の低血糖エピソードとの関連を多変量Cox比例ハザード回帰モデルで評価した。
低血糖発現後60日以内では関連なし
解析の結果、CARMELINA試験(6,979例、男性62.9%、平均年齢65.9±9.1歳)では、低血糖とその後の3ポイントMACE+HHF〔ハザード比(HR)1.23、95%CI 1.04~1.46〕、および非致死性CVイベント+ HHFとその後の低血糖(同1.39、1.06~1.83)との間に双方向の関連が認められた。
一方、CAROLINA試験(6,033例、男性60.0%、平均年齢64.0±9.5歳)では低血糖と3ポイントMACE + HHF(HR 1.00、95%CI 0.76~1.32)、非致死性CVイベント + HHFとその後の低血糖(同1.44、0.96~2.16)のいずれも関連は認められなかった。
低血糖発現後60日以内の3ポイントMACE + HHF発生リスクを検討した感度分析では、両試験とも関連が認められなかったか、イベント数が少なく意味のある評価ができなかった。
因果関係というよりも共通の脆弱性の反映
今回の結果について、Marx氏らは「低血糖症とCVイベントおよび死亡には因果関係があるとする、広く受け入れられている見解(Lancet Diabetes Endocrinol 2019; 7: 385-396)とは異なる知見が示された」と考察。
因果関係の検討においてはBradford Hillの判定基準(9項目)を適用。その中で鍵となるのは関連の時間性(temporality)であり、それを間接的に評価するために低血糖とCVアウトカムの双方向の関連を評価したが、Marx氏らは「双方向の関連は、片方がもう一方を惹起するというよりも、各アウトカムに共通の脆弱性(common vulnerability)を反映している可能性が高い」と指摘。「CARMELINA試験で低血糖とCVアウトカムとのHRは双方向で同程度だったが、この関連は互いに時間的に独立したものであった。さらに低血糖エピソード発現後60日以内のCVイベントリスクの上昇は観察されなかったことを踏まえると、因果関係の可能性は低い」と考察している。
Bradford Hillの判定基準でもう1つ鍵となるのが生物学的説得性(plausibility)であり、低血糖とCVリスク上昇をつなぐ経路についてもさまざまな報告がある(Diabetes Care 2011; 34: S132-S137)。これについても、同氏らは「低血糖とその後のMI発症リスクを明確に説明できる機序は不明だ」とし、「アウトカムやQOLへの影響を考えると、低血糖を減らす努力は正当化されるが、低血糖を回避できたとしてもCVリスクは低減できない可能性がある」と結論している。
(木本 治)