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幼少期のテレビ視聴は学童期の視力低下につながる 令和3年4月22日
岡山大学

 ◆発表のポイント

 ・厚生労働省が行う一般統計調査として「21世紀出世児縦断調査」があります。これは、全国で2001年1月10日~17日および7月10日~17日に出生した子供47,015人を対象として毎年調査票を送って回答してもらう調査です。
 ・岡山大学では疫学・衛生学分野の頼藤貴志教授が中心となって、この「21世紀出世児縦断調査」のデータを活用してさまざまな解析研究を行っています。
 ・今回の研究では、1.5歳、2.5歳の時にテレビを長時間見ていると、その後、小学生になったときに視力が低下することと関連することがわかりました。

 岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(医)生体機能再生再建医学分野の松尾俊彦教授は、岡山大学学術研究院医歯薬学域(医)疫学・衛生学分野の頼藤貴志教授と共同で、21世紀出世児縦断調査のデータを使って、幼少時のテレビ視聴とその後の小学生時(小学校1年~6年)の視力低下との関連を調べました。1.5歳と2.5歳の時に「主な遊びがテレビを見ること」である子供は、その後小学生になった時に「視力が悪くなった」という親の悩みと関連があることが分かりました。また、2.5歳の時のテレビを見る時間が長い場合にも、小学生時に視力が悪くなることと関連がありました。なお、3.5歳、4.5歳、5.5歳ではテレビを見る時間が長くても、小学生時に視力が悪くなることと関連はみられませんでした。

 本研究成果は令和3年3月16日、日本眼科学会の国際機関誌「Japanese Journal of Ophthalmology」に掲載されました。視覚が発達する3歳までは、テレビ視聴が長くならないように特に注意することが大切と思います。

松尾教授

松尾教授

 ◆研究者からのひとこと

 岡山大学病院眼科ではぶどう膜炎(眼炎症)・眼腫瘍や小児眼科の専門外来を長年担当しています。保健所と連携して3歳児健康審査での視力検査や屈折検査についても調査してきました。幼少期のテレビ視聴がどのような影響をその後の視力に及ぼすかの研究はこれまでなかったのですが、疫学が専門の頼藤教授と共同で3歳までのテレビ視聴は小学生時の視力低下(おそらくは近視による)と関連があることを初めて明らかにできました。3歳まではお子様がテレビなどを長時間見ないように気を配ってくださいますことをお願い致します。

 ■発表内容
 ○乳幼児期のテレビ視聴が近視の原因?
 近視の発症には、遺伝的要因と環境要因の両方が関与すると考えられており、環境要因の1つに、近くを長時間見る「近業」が挙げられています。

 今回、私たちの研究グループでは、「第124回日本眼科学会総会」(2020年4月27日〜5月18日、ウェブ開催)において、「乳幼児期の主な遊びがテレビ視聴だった子供は小学生時に視力が悪くなった割合が高かった」と報告し、この報告をまとめたものが今回の論文となります。

 ○21世紀出生児縦断調査のデータを活用し因果関係を解析
 「21世紀出生児縦断調査」は、同一客体を長年にわたって追跡する縦断調査として、2001年から実施されています。同居者、学校生活の様子、起床時間・就寝時間、食事の様子、習いごとなどの状況、1カ月の子育て費用、病気やけが、身長・体重、父母の就業状況などを調査し、21世紀の初年に出生した子の実態および経年変化の状況を継続的に観察しています。少子化対策などの施策の企画立案、実施のための基礎資料として役立てようというもので、毎年調査票への記入という形で調査が実施されています。
今回の研究ではこのデータを用いて幼少時のテレビ視聴と小学生時の視力低下との間に因果関係があるかを調べました。

 対象は2001年1月10日〜17日および7月10日〜17日に日本で生まれた47,015人。調査票の回答に基づき、幼少時のテレビ視聴とその時間を暴露因子として、7〜12歳の小学生時に「視力が悪くなった」という、親の悩みが1回以上回答された場合をアウトカムとして解析を行いました。

 ○2.5歳時にテレビ視聴2時間以上/日は視力低下につながる可能性
 1.5歳および2.5歳時にテレビ視聴が主な遊びであった子供は、そうでない子供と比べ7〜12歳の小学生時に1回以上「視力が悪くなった」と回答した割合が有意に高くなりました〔オッズ比1.1および1.09、95%CI(1.05〜1.15および1.04〜1.14)〕。

 子供の性別、未熟児や多産の有無、母の分娩時年齢、父母の教育歴、母の喫煙の有無で調整しても有意でした〔オッズ比1.1および1.09、95%CI(1.05〜1.15および1.04〜1.15)〕。

 また、2.5歳時に1日のテレビ視聴時間が2時間以上であった子供は、視聴時間が1時間未満であった子供と比べ、小学生時に視力が悪くなったと回答した割合が有意に高かくなりました。3.5歳、4.5歳、5.5歳時の1日のテレビ視聴時間と小学生時の視力低下について関連は認められませんでした。

 <社会的意義>
 小児の視力そのものを評価していないという限界はあるものの、1.5歳および2.5歳という生後早期のテレビ視聴は小学生時の視力低下に関連することが示されました。

 また、2.5歳時では、長時間のテレビ視聴が視力低下と関連していたことから、生後の早い時期にテレビ視聴が長くならないよう注意を喚起する必要があると考えます。

 なおこの記事に記載した日本眼科学会総会での発表内容は、Medical Tribune Web版(2020年5月25日)に「乳幼児のテレビ視聴が近視の原因?」として紹介されています。
U  R  L:https://medical-tribune.co.jp/news/2020/0525530335/

■論文情報等
論文名:Television watching in the early years of life and the association with parents’ concerns about decreased visual acuity in their elementary school aged child: results of a nationwide population based longitudinal survey of Japan.
掲載誌: Japanese Journal of Ophthalmology
著者: Toshihiko Matsuo, Takashi Yorifuji
DOI: https://doi.org/10.1007/s10384-021-00831-x
U  R  L: https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s10384-021-00831-x

<お問い合わせ>
岡山大学 学術研究院 ヘルスシステム統合科学学域(医)
(岡山大学病院眼科)
教授 松尾 俊彦
(電話番号)086-235-7297(眼科医局) 


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