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かかりつけ医機能が高いほどコロナ禍での入院リスクが低下
~高いかかりつけ医機能を発揮する医師を持つと入院リスクが約6割減少〜 東京慈恵会医科大学

 東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部の青木拓也講師、松島雅人教授らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大後のプライマリ・ケアに関する全国的な縦断調査を実施し、かかりつけ医機能はコロナ禍での入院リスク低下と関連することを明らかにしました。調査では、高いかかりつけ医機能を発揮する医師を持つ人は、かかりつけ医なしの人と比べ、コロナ禍での入院リスクが約6割低いという結果になりました。

 今般、COVID-19パンデミックをきっかけに、身近で何でも相談できる医療(プライマリ・ケア)を担う「かかりつけ医」の役割に大きな注目が集まっています。医療制度議論においても、「かかりつけ医機能」の強化が重要な論点になっていますが、パンデミック下におけるかかりつけ医機能と入院リスクとの関連については、これまで国内外での検証が行われていませんでした。

 今回の研究は、医療システムに大きな負荷がかかるパンデミック下において、プライマリ・ケア機能(日本におけるかかりつけ医機能)と入院リスクとの関連を検証した世界初の研究であり、高いかかりつけ医機能を発揮する医師を持つ人ほど、コロナ禍での入院リスクが低いことが明らかになりました。

 本研究の成果は、かかりつけ医機能の強化やプライマリ・ケア専門医(総合診療専門医など)の育成をはじめ、プライマリ・ケアの強化を政策的に推進する上での基礎資料となるものです。

 本研究の成果は、2023年1月24日にAnnals of Family Medicine誌に掲載されました。

 【研究成果のポイント】

 • 全国的な縦断調査に基づき、パンデミック下におけるプライマリ・ケア機能(日本におけるかかりつけ医機能)と入院リスクとの関連を世界で初めて検証。

 • 高いかかりつけ医機能を発揮する医師を持つ人ほど、コロナ禍での入院リスクが低いことが明らかになった。

 • かかりつけ医機能の強化によって、パンデミック下における健康状態悪化の予防だけでなく、入院医療にかかる負荷の軽減や医療費の削減も期待できる。

 研究の詳細

 1.背景

 プライマリ・ケアは、住民のあらゆる健康問題に包括的かつ継続的に対応し、多職種や高次医療機関、地域住民との協調を重視するヘルスケアサービスです。COVID-19パンデミック以前の海外の研究において、質の高いプライマリ・ケアが入院リスクの低下と関連することが報告されています。

 わが国でも、COVID-19パンデミックをきっかけに、プライマリ・ケアを担う「かかりつけ医」の役割に大きな注目が集まっており、「かかりつけ医機能」の強化が、医療制度議論における重要な論点になっています。しかし、パンデミック下におけるプライマリ・ケア機能(日本におけるかかりつけ医機能)と入院リスクとの関連については、これまで国内外での検証が行われていませんでした。

 パンデミック下では、感染症による健康問題だけでなく、通常の慢性疾患管理や予防医療の提供などにも支障が生じることを鑑み、本研究は、COVID-19パンデミック下において、かかりつけ医機能と入院リスクとの関連を検証することを目的としました。

 2.手法

 本研究は、COVID-19パンデミック下の2021年5月〜2022年4月に実施されたプライマリ・ケアに関する全国前向きコホート研究(National Usual Source of Care Survey: NUCS)のデータを用いて実施されました。NUCSは、代表性の高い日本人一般住民を対象とした郵送法による調査研究です。民間調査会社が保有する約7万人の一般住民集団パネルから、年齢、性別、居住地域による層化無作為抽出法を用いて、40〜75歳の対象者を選定しました。

 追跡期間の12カ月間における入院の発生を主要評価項目に設定しました。かかりつけ医機能は、Japanese version of Primary Care Assessment Tool (JPCAT)短縮版を用いて、ベースライン時点で評価を行いました。JPCATは、米国Johns Hopkins大学が開発し、国際的に広く使用されているPrimary Care Assessment Toolの日本版であり、その妥当性・信頼性が検証されたプライマリ・ケア機能評価ツールです注1)注2)。JPCATの下位尺度は、近接性、継続性、協調性、包括性、地域志向性といったプライマリ・ケアの特徴的な機能注3)であり、日本専門医機構の総合診療専門医のコンピテンシー注4)などと重なります。

 統計解析では、住民をかかりつけ医あり群・なし群、かかりつけ医あり群をさらに四分位群(低機能群、低中機能群、中高機能群、高機能群)に分けて、入院リスクを比較しました。比較を行う際には、多変量解析を用いて、年齢、性別、教育歴、慢性疾患数、健康関連QOL (Quality of Life)といった住民の属性の影響を統計学的に調整しました。

 3.成果

 追跡調査を完了した1,161人を解析対象者としました(追跡率 92.0%)。解析対象者のうち、723人 (62.3%)がかかりつけ医を有しており、追跡期間中に87人 (7.5%)で入院が発生しました。入院した者のうち、5人 (5.7%)はCOVID-19による入院でした。

 住民の属性の影響を統計学的に調整した結果、かかりつけ医あり群の中でも、かかりつけ医機能が高い(JPCAT総合得点が高い)群ほど、コロナ禍での入院リスクが低下することが明らかになりました(かかりつけ医なし群と比較したかかりつけ医あり・高機能群の調整オッズ比: 0.37, 95%信頼区間: 0.16–0.83)。高機能群における入院リスク低下は、JPCATの総合得点だけでなく、下位尺度得点(近接性、継続性、協調性、包括性、地域志向性)を用いた解析でも、全てにおいて認められました。

• 入院リスクは調整オッズ比の値です。
• *は「かかりつけ医なし」に対して、統計学的に有意な低下があったことを示しています。
• かかりつけ医機能はJapanese version of Primary Care Assessment Toolで評価しました。

 4.今後の応用、展開

 本研究の成果は、かかりつけ医機能の強化やプライマリ・ケア専門医(総合診療専門医など)の育成をはじめ、プライマリ・ケアの強化を政策的に推進する上での基礎資料となるものです。

 今回の研究成果をもとに、入院以外のさまざまなアウトカムについても検討することによって、COVID-19パンデミック後における、かかりつけ医機能やプライマリ・ケアの価値に関するエビデンスを今後もさらに構築していく予定です。

 5.脚注、用語説明

注1)
Aoki T, Inoue M, Nakayama T. Development and Validation of the Japanese version of Primary Care Assessment Tool. Fam Pract. 2016;33(1):112-117.

注2)
Aoki T, Fukuhara S, Yamamoto Y. Development and Validation of a Concise Scale for Assessing Patient Experience of Primary Care for Adults in Japan. Fam Pract. 2020;37(1):137-142.

注3)
日本プライマリ・ケア連合学会. プライマリ・ケアとは?
http://www.primary-care.or.jp/paramedic/ (accessed January 5, 2023)

注4)
日本専門医機構. 総合診療領域専門研修プログラム整備基準
https://jbgm.org/menu/専門研修プログラム/#con1 (accessed January 5, 2023)

 6.論文情報

 掲載誌:Annals of Family Medicine
 論文タイトル:Impact of Primary Care Attributes on Hospitalization During the COVID-19 Pandemic: A Nationwide Prospective Cohort Study in Japan
 著者:Aoki T, Sugiyama Y, Mutai R, Matsushima M.
 DOI:https://doi.org/10.1370/afm.2894
 *本研究は、JSPS科研費 JP20K18849、ファイザーヘルスリサーチ振興財団研究助成 21-E-01の助成をうけたものです。

 【メンバー】
 東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 講師 青木拓也
 東京慈恵会医科大学 教育センター 地域医療支援部門 講師 杉山佳史
 東京慈恵会医科大学 医学部看護学科 成人看護学 講師 務台理惠子
 東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 教授 松島雅人

以上


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