アダリムマブは中等度〜重度の化膿性汗腺炎の第一選択薬であるにもかかわらず、米国の化膿性汗腺炎患者2万5,966例を対象とした横断研究によると、同薬または第二選択薬のインフリキシマブの処方割合はわずか1.8%にとどまる(J Am Acad Dermatol 2021; 84: 1399-1401)。そのため、疾患のコントロールが悪くオピオイドを含む鎮痛薬などの疼痛緩和策を講じる必要性が増している。米・Emory University School of MedicineのNicole Salame氏らは、化膿性汗腺炎患者の治療決定に影響する因子を明らかにする目的で半構造化面接を実施。意思決定に影響する因子として、痛みの閾値、治療リスクの認識、治療による疲労、疾患の理解、情報源が同定されたとJAMA Dermatol2024年1月10日オンライン版)に報告した。

化膿性汗腺炎患者の認識が浮き彫りに

 対象は、同大学付属の皮膚科クリニック2施設を受診した成人化膿性汗腺炎患者で、2019年11月〜20年3月に面談を実施。データ収集は21回の面談で調査事項を満たすまで継続し、2021年12月〜22年8月に解析した。

 解析対象は21例〔年齢中央値38.5歳(範囲27.9〜43.4歳)、女性16例(76%)〕で、Hurley病期分類はⅡ〜Ⅲ期が96%を占め、15例(71%)にアダリムマブの使用歴があった。直近7日間の疼痛重症度スコアの中央値は6(範囲3〜7)、皮膚疾患のQOLへの影響は重度が8例(38%)、極めて重度が5例(24%)、中等度が7例(33%)、軽度が1例(5%)だった。

 解析の結果、化膿性汗腺炎患者における治療上の意思決定に影響を及ぼす因子として、①痛みの閾値、②治療リスクの認識、③治療による疲労、④疾患の理解、⑤情報源ーの5つが同定された。面談から聴取された患者の認識と皮膚科医への推奨事項は下記の通り。

① 痛みの閾値

患者の認識:痛みが耐えられなくなるまで、リスクが高いと思われる治療法(生物学的製剤、手術)を選択するのをためらう

皮膚科医への推奨:長期的な後遺症を軽減するために適切な治療の機会について、患者を教育する

 症状や重症度に関連した疼痛が治療上の意思決定において中心的な役割を果たし、症状による疲弊の増大に伴い外用薬から内服薬、生物学的製剤へと治療をエスカレートさせていた。治療をエスカレートさせるかどうかは、治療上のリスクと痛みの軽減を勘案した患者の意思決定に基づいており、中には薬物療法を避ける傾向によって進行し、治療のベネフィットがリスクを上回ると判断するまで症状を我慢した事例もあった。アダリムマブは悪化した難治例に対する最後の手段あるいはステップアップ療法と捉える患者もおり、苦痛が身体的、心理的閾値に達し、もはや耐えられなくなった段階で選択していた。

② 治療リスクの認識

患者の認識:特に懸念している事柄は、経口抗菌薬では耐性、胃腸不耐性、生物学的製剤では感染症、リンパ腫、手術では回復、外科医の経験

皮膚科医への推奨:リンパ腫のようなまれなリスクは、インフォグラフィックを用いて視覚的に説明する

 生物学的製剤による治療を開始するかどうかの決定には、免疫調節作用と感染症リスクが影響した。軽度の感染症と入院を要する重度の感染症の間に認識の混乱が見られた。長期入院や家族を扶養する上で悪影響を及ぼすような免疫抑制、感染症のリスクに対する許容度が低かった。生物学的製剤治療に伴うリスクについて誤解しているケースもあり、生物学的製剤を免疫抑制薬と認識している事例や、アダリムマブの副作用リスク、合併症、薬物相互作用に関する誤解により使用を躊躇する事例が見られた。なお、自己注射に関する恐怖は生物学的製剤の開始を躊躇する主な理由ではなかった。医師からリスクについて説明されたことで、安心して治療が進められたと感じている例もいた。治療リスクの説明に際し、視覚的な説明や事例が提供された場合、より治療を受け入れやすかった。

③ 治療による疲労

患者の認識:前治療の失敗と奏効までの期間の長さが新しい治療法に対する希望を減退させる

皮膚科医への推奨:維持療法への橋渡しとして即効性のある治療や対症療法を提供する。最先端の治療法や現在進行中の化膿性汗腺炎研究の情報を共有する。奏効までの期間(通常3〜4カ月)と薬物療法および手術の役割について、現実的な期待値を設定する

 効果不十分または病勢の進行などが切望感や行き詰まり感につながり、新たな治療法を試す意欲を減退させていた。この絶望感から、効果を得るために必要な期間が経過する前に治療を中止するケースもあった。中には、リスクや副作用を許容しても効果がない可能性のある治療法を試す価値があるのかを疑問に感じている事例も見られた。

④ 疾患の理解

患者の認識:皮膚科医から疾患の経過、予想される慢性化、治療法について詳しく知りたい

皮膚科医への推奨:慢性疾患としての化膿性汗腺炎の自然経過について患者を教育する。手術(治療抵抗性の瘻孔の治療)と比べた薬物療法(新たな病変を予防し再燃を抑える)の役割について説明する

 アダリムマブに関する十分な教育を受けていないと感じることで使用に消極的なケースが見られた。慢性化や疾患の経過に関する理解不足も影響を及ぼしていた。皮膚科医には治療法の選択肢だけでなく、病態についても説明してほしいと望んでいた。ある患者は、治療法がない慢性疾患であることを教えてくれた医師に感謝の意を示し、そのおかげでさまざまな治療法を試す意欲が高まったと述べている。

⑤ 情報源

患者の認識:皮膚科医、インターネット、広告、友人や恋人から情報を得られる

皮膚科医への推奨:新しい薬剤に関する情報の入手元を患者に尋ね、懸念事項を説明する。質の高いオンラインリソースの提供、患者の許可を得た上で、治療に関する話し合いに友人や恋人などの親しい人を参加させることを考慮する

 患者は皮膚科医が勧める治療計画をおおむね信頼していた。共感的で個別的なケアを提供し、治療法や疾患全般の進行に関する予測について説明する皮膚科医との継続的な関係は、患者の信頼を向上させた。オンライン患者フォーラムやオンラインサポートグループの情報源は、特に生物学的製剤による治療を検討する際に安心感を与えた。患者自身が調べたことと皮膚科医の勧めが相反した場合は、治療の躊躇につながっていた。生物学的製剤を使用している友人からの話は患者の認識に影響を与えた。ある患者は、友人がアダリムマブ治療を受けている間、化膿性汗腺炎の再燃が減少したと聞いてアダリムマブを開始することにした。両親や親しい人から助言を受けた患者もいた。

皮膚科医による早期治療の啓発が必要

 以上から、Salame氏らは「最近の研究では、化膿性汗腺炎による不可逆的な瘻孔や瘢痕が形成される前にアダリムマブを開始することが推奨されている。皮膚科医は、問診時に患者のリスクに対する理解を評価し、全身治療の利点を強調しながら誤解に対処すべきである。特に、生物学的製剤のリスクに対する誤解は治療開始の大きな阻害要因だった」と考察。同氏らは「皮膚科医は依然として信頼できる主要な情報源であると考えられていた。リスクに関する誤解に対処して疾患知識のギャップを明らかにし、瘢痕形成や疾患の進行の予防における早期治療の重要性を強調することで、化膿性汗腺炎患者は皮膚科医から十分な情報を得た上で有意義な治療を決定したり、新しい治療法を試せるようになる可能性がある」と結論するとともに、「今後、軽症例やアダリムマブ未使用例を対象とした大規模多施設共同研究により、患者の視点がさらに明らかにされれば、意思決定の共有が最適化されるだろう」と展望している。

編集部