体温は救命救急領域においてルーチンに測定されるバイタルマーカーの1つであり、患者の転帰に影響を及ぼす可能性があるが、体温と死亡率の関係は確立されていない。シンガポール・National University of SingaporeのDaniel J. Tan氏らは、集中治療室(ICU)患者に関する2つのデータベースを用いた後ろ向きコホート研究の結果、体温37℃でICU患者の死亡リスクが最も低かったとEur J Med Res2024; 29: 33)に報告した。

米国のICU患者大規模コホート2つを用いて検討

 Tan氏らは、米国におけるICU患者に関するデータベースMedical Information Mart for Intensive Care Ⅳ(MIMIC-Ⅳ)およびeICU Collaborative Research Database(eICU)から、ICU初回入室後48時間以内に5回以上の体温測定値を有する18歳以上の患者を対象に、体温と死亡との関連を検討する後ろ向きコホート研究を実施。評価項目は院内死亡率およびICU死亡率とした。

 MIMIC-ⅣとeICUからそれぞれ4万3,537例と7万5,184例を組み入れた。院内死亡率およびICU死亡率はMIMIC-Ⅳコホートでは9.3%および6.2%、eICUコホートでは9.2%および5.0%だった。eICUコホートに比べMIMIC-Ⅳコホートでは緊急入院、侵襲的人工呼吸、ステロイド使用の割合が多かった。透析使用率は同等で、バソプレッサー使用率はMIMIC-Ⅳコホートは4%、eICUコホートは10.1%だった。

 体温中央値と院内死亡にはU字カーブが認められ、至適体温はMIMIC-ⅣコホートおよびeICUコホートでそれぞれ36.8℃、37.0℃であり、全体的な至適体温は37℃と考えられた。一方、至適体温との差は院内死亡と正の関連が示され、閾値は認められなかった。

36℃未満、38℃以上の時間割合が増加すると死亡率が高まる

 そこでTan氏らは、体温管理の至適範囲を37±1℃と仮定し、死亡率と至適体温内にある時間の割合との関連を検討した。

 MIMIC-IVコホートおよびeICUコホートにおいて、体温が36~38℃の範囲内であった時間の割合の10%増加は、年齢、性、急性生理学スコア(APS-Ⅲ)、Charlson Comorbidity Scoreなどを調整後の院内死亡リスクの低下と関連した(順にOR 0.91、95%CI 0.90〜0.93、同0.86、0.85〜0.87)。一方、体温36℃未満の時間割合の10%増加は院内死亡リスクの上昇と関連した(同1.08、95%CI 1.06〜1.10、同1.18、1.16-1.19)。同様に、体温38℃以上の時間割合の10%増加は院内死亡リスクの上昇と関連した(同1.09、1.07〜1.12、同1.09、1.08〜1.11)。ICU死亡リスクも同様であった。

 がん、慢性腎臓病、敗血症、慢性閉塞性肺疾患、緊急入院、脳卒中虚血性心疾患、心停止など、検討を行った全ての患者サブグループにおいて、至適体温は一貫して36~38℃の範囲内であった。

 同氏らは「ICUにおける体温の測定部位や方法にばらつきがあること、米国のICUのみを対象としていることなどの限界はあるが、ICUに入室する重症患者群において、至適体温範囲は36〜38℃だった。今回の結果はさまざまな疾患背景の集団で一貫しており、心停止後、外傷性脳損傷、脳卒中の患者における低体温療法の施行を支持しない。患者の転帰を最適化するため、ICUでの36〜38℃以内の積極的な体温管理についてさらなる研究が必要だ」と結論している。

編集部