不安や不眠に頻用されるベンゾジアゼピン系薬だが、妊娠中に同薬を使用すると流産リスクが高まるとの大規模症例対照研究の結果を、台湾・National Taiwan UniversityのLin-Chieh Meng氏らがJAMA Psychiatry(2023年12月27日オンライン版)に発表した。
台湾で全国規模のcase-time-control研究を実施
妊娠中は精神的な落ち込みや睡眠障害を来しやすく、不安や不眠に処方されるベンゾジアゼピン系薬が広く用いられている。妊娠初期の女性の約1.7%にベンゾジアゼピン系薬が処方されているとの報告もあり、近年、処方は増加傾向にある。一方で、妊娠中のベンゾジアゼピン系薬の使用は、胎児の発育異常を引き起こす危険性が懸念されている。ただ、同薬の使用と流産リスクの関連を検討した研究は限られる。
Meng氏らは今回、台湾の国民健康保険(NHI、2002~19年)と出生証明書申請(2004~18年)の2つのデータベースを用いて、case-time-control(症例-時間-対照)デザインによる全国規模の症例対照研究を実施した。case-time-control研究は、症例クロスオーバー分析と対照クロスオーバー分析の2つから成る。経時的に変動する交絡因子と妊娠期間中の薬剤処方パターンの変化に起因するバイアスを調整した上で、妊娠中のベンゾジアゼピン系薬の使用と流産との関連を検討した。
作用時間別や頻用する5製剤別でも解析
2004~18年に流産に至った妊婦を症例クロスオーバー分析の対象とし、人口統計学的特徴や妊娠前の併存疾患を考慮した上で、1:1でマッチングした対照群を選出した。流産に至った妊婦と対照妊婦で、リスク期間(流産の1~28日前)と2つの基準期間(最終月経の31~58日前および181~208日前)におけるベンゾジアゼピン系薬への曝露(各期間中に同薬の処方を1回以上受けた場合と定義)を比較した。
さらにベンゾジアゼピン系薬を、短時間作用型(半減期24時間以内)と長時間作用型(同24時間超)に分けた評価、頻用される5製剤(アルプラゾラム、ジアゼパム、ロラゼパム、オキサゾラム、フルジアゼパム)別の評価も行った。なお、流産は最初の妊婦健診(通常は妊娠8週目)から妊娠19週目までに発生した妊娠の喪失と定義した。
関連はフルジアゼパムで最強、アルプラゾラムで最弱
女性195万7,601例(平均年齢30.61±5.91歳)における妊娠306万7,122件のうち、13万6,134件(4.4%)が流産に至った。マッチングにより13万4,864組の妊婦を解析対象に組み入れた。
解析の結果、妊娠中のベンゾジアゼピン系薬の使用は流産リスクの上昇と関連していた〔オッズ比(OR)1.69、95%CI 1.52~1.87〕。複数の感度分析でも一貫した結果が得られた。
またベンゾジアゼピン系薬は、長時間作用型(OR 1.67、95%CI 1.44~1.93)と短時間作用型(同1.66、1.47~1.87)ともに流産リスクとの関連が認められた。頻用される5製剤についての検討では、いずれも流産リスクとの関連が認められた。関連の強さには製剤でばらつきが見られ、フルジアゼパムが最も強く(OR 2.52、95%CI 1.89~3.36)、アルプラゾラムが最も弱かった(同1.39、1.17~1.66)。さらに、ベンゾジアゼピン系薬の使用と流産リスクとの間には用量依存性の関係が認められた。
以上から、Meng氏らは「既知の交絡因子を考慮したcase-time-control研究において、妊娠初期のベンゾジアゼピン系薬の使用は流産リスクの上昇と有意な関連を示した。この結果は未知の交絡因子によるものとは考えにくい」と結論。その上で、「妊娠初期に同薬を使用する際には注意が必要であり、処方する際には、流産を含むリスクと臨床的なベネフィットを総合的に評価すべきだ」と述べている。
(小谷明美)