こちら診察室 歯の健康と治療

虫歯の進行と処置 【第2回】

図1

図1

 健康な歯(図1)は歯槽骨という骨の中に埋まっており、エナメル質という硬い組織(図の白い部分)で守られています。しかし、ひとたび虫歯になると、エナメル質が破壊されて象牙質(図の薄いオレンジ色の部分)に及び、この象牙質の表面に無数に開いている管(象牙細管)を通じて歯の神経(歯髄=図の歯の中の赤い部分)に信号が送られ、種々の痛みが生じてきます。

 ◇放置すると耐え難い痛み

 一般的には図2のように、食べ物をかむ面の溝から知らないうちに虫歯が侵食し、冷たいものや甘いものが染みるようになります。この時点で歯科を受診すれば、普通は虫歯の部分だけを削って全て除去します。虫歯が大きければ薬剤を用いて治療し、溶けた歯の成分が元に戻る再石灰化を待ってから、歯の色をしたプラスチックなどの詰め物をして修復を行います。同じ虫歯の状態でも、図3のように横から穴が開いている場合は神経に接近している場合が多く、神経の処置をしなければならない場合もあります。

(左から)図2、3、4

(左から)図2、3、4

 この状態で種々の痛みを我慢して受診しなければ、さらに虫歯が進行して図4のように完全に神経に到達。虫歯菌によって神経に炎症が起こり、場合によっては夜も眠れないほどの激しい痛みに襲われます。急性歯髄炎と診断される状態です。この段階の痛みは人間にとって一番耐えられないとも言われており、一刻も早く神経を抜かないと治まりません。

 ◇異常を感じたらすぐ受診

 このような症状になる前に歯科を受診していただきたいと思います。定期的な健診に加え、異常を感じたらすぐに受診することが大切であると言えます。急性症状が出ない場合でも、虫歯が神経に到達していると、いずれは何らかの症状が出てきますので神経の処置をする必要があります。

 幸運にも激しい痛みがなく、自然に神経が死んでしまっていることも多いのですが、このときは大抵、図5のように歯の根の先に炎症が起きています。慢性の炎症であることが多く、慢性根尖性(こんせんせい)歯周炎と呼ばれています。通常は痛みも無く、根の中を消毒する治療で治ります。

図5

図5

 ただし、まれに急に痛みが強くなり、歯茎が腫れてくることがあります。ほっておくと、外から見ても分かるくらいに顔が腫れたりします。この場合は急性根尖性歯周炎と呼ばれ、うみを出して抗生物質を服用しなければなりませんので、すぐに歯科医院を受診してください。

 ◇治療に時間かかるケースも

 このように、身体の抵抗力が弱まった際などには時として急性の炎症が起き、顔の半分が腫れてしまう場合もあります。患者さんは「歯の神経が死んでいるのに、なぜ痛いのですか?」と不思議がることが多いのですが、炎症が歯の中ではなく、歯の外側の歯が植わっている骨の中で起きているのです。

 この場合には、まず炎症を抑えた後、根の中の消毒に取りかかります。歯の中の治療は「歯内療法」と言われ、とても専門性が高い分野であり、最近ではマイクロスコープで拡大して治療を行うことが必須となっています。

 地域の一般的な歯科医院ではまだ普及していませんが、最近では、歯内療法専門医が週に一日でも診療を手伝いに来ている歯科医院は、マイクロスコープを設置していることが多くなっています。特にここ数年の間に、こうした治療法の専門性が認識され、正確に行うことによって1本の歯の寿命を延ばせると分かってきましたので、歯内療法が必要になった場合にはマイクロスコープが設置されている歯科医院を選ぶといいのではないでしょうか。

 一般的に、歯の根の消毒には数回かかるため、1本の歯の治療を行うのにかなりの回数、通院しなくてはなりません。そういう意味でも虫歯の早期発見・早期治療が重要で、できればかかりつけの歯科医院で定期的にチェックしてもらうことが大切だと言えるでしょう。(了)

古澤成博教授

古澤成博教授


古澤成博(ふるさわ・まさひろ)
 東京歯科大学教授。
 1983年東京歯科大学卒業、87年同大大学院歯学研究科修了。同大歯科保存学第一講座助手、口腔健康臨床科学講座准教授などを経て2013年4月から同大歯内療法学講座主任教授。16年6月から水道橋病院保存科部長を兼務し、19年6月からは副病院長も務める。
 日本歯科保存学会専門医・指導医、日本歯内療法学会専門医・指導医、日本顕微鏡歯科学会認定医。これら3学会や日本総合歯科学会の理事を歴任。

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