高齢者の手術後の認知症発症リスクは明らかでない。カナダ・University of CalgaryのKrista M. Reich氏らは、待機的手術を受けた高齢者と非手術の対照群を比較し、術後における高齢者の認知症発症率を検討。待機的手術を受けた高齢者では認知症の新規発症率が、手術を受けていない人と同等だったことをJ Am Geriatr Soc2024年1月2日オンライン版)に報告した。

背景が一致する約1万4,000組で比較

 高齢者では、心臓以外の主要手術において術後せん妄が65%、長期の認知機能低下が10%の患者に起こるとされている。原因は直接的な神経損傷、神経炎症、血管障害などと考えられているが、手術を受けなかった人との比較により、高齢者における待機的手術と認知症発症との関連を検討した研究はほとんどなかった。

 今回の研究では、カナダ・オンタリオ州の行政データベースから2007年4月~11年3月に5種の主要な待機的手術(人工股関節置換術、人工膝関節置換術、鼠径ヘルニア修復術、前立腺切除術、子宮摘出術)のいずれかを受けた65歳超の患者を抽出。手術を受けなかった患者と1:1でマッチングした。

 マッチングでは、年齢、性、登録年度に加え、診察した外科医の専門領域、診断を受けた疾患の類似性(例えば、股関節・膝関節置換術に対しては変形性関節症)まで厳密に一致させ、さらに、既往症や現症、薬歴、受診歴などについて傾向スコアを用いた。介護施設居住者、認知症診断歴や過去5年間の大手術歴がある者、麻酔禁忌の患者などは除外した。

 登録から最長5年間追跡し、新規の認知症診断を行政データから抽出して、その割合を両群間で比較した。合計2万7,878人(1万3,939組)を解析に組み入れた。平均年齢は74.1歳(標準偏差 5.9歳)、女性は63%だった。

全体、サブグループ、感度解析で一貫した結果

 手術群の640人(4.6%)と対照群の965人(6.9%)が追跡期間中に認知症を発症した。対照群と比べ、手術群で認知症の発症率は低かった〔ハザード比(HR)0.88、95%CI 0.80~0.97、P=0.01〕。

 年齢、性、全身/局部麻酔、手術の種類で層別化したサブグループ解析、術後90日以内の認知症発症および術後90日以内の死亡を除外した感度解析、未測定交絡因子に対する感度分析でも同様の傾向が示された。

 また、negative control outcomeとして追跡期間中の心筋梗塞と市中肺炎の発生率を両群で比較した結果、いずれも手術群で有意に低かった。Reich氏らはこの結果について「未測定の交絡因子の影響と考えられ、手術が保護的に働いたと解釈すべきでない」と指摘。

 その上で、同氏らは「高齢者の待機的手術は、手術を受けていない人と比べて認知症の新規発症率を高めるものではない」と結論。「待機的手術を検討する際に、患者と外科医にとって重要な考慮事項となる結果である」と付言している。

(小路浩史)