米・University of Illinois Urbana-ChampaignのMegan L. Woodbury氏らは、妊娠中のアセトアミノフェンの使用が生まれた子に及ぼす影響を検討するため、535組の母児を対象とした前向きコホート研究Illinois Kids Development Study(IKIDS)を実施。その結果、妊娠中のアセトアミノフェンは児の幼少期における注意力低下に関連している可能性があるとNeurotoxicol Teratol2024: 101: 107319)に報告した。

使用の理由、期間、回数を出産までに6回確認

 アセトアミノフェンは現在、妊娠中に安全に使用できる唯一の解熱鎮痛薬だが、胎内曝露により胎児の神経発達に悪影響を及ぼす可能性が複数の研究で示されている。しかしほとんどの研究において、薬剤使用データは母親の1~2回の自己申告に基づいていることから、正確性に欠ける。

 そこでWoodbury氏らは今回、母親の妊娠中のアセトアミノフェン使用による胎内曝露が児の神経発達に及ぼす影響を検討する目的で、前向きコホート研究IKIDSを実施した。

 対象は、2013年12月~20年3月に米国の産科クリニック2施設で診察を受けた18〜40歳の妊婦と出生児535組。母親の適格基準は単胎妊娠、非高リスク妊娠などで、妊娠8〜14週に登録した。

 母親は出産までに6回(妊娠10~14週、16~18週、22~24週、28~30週、34~36週、出産後24時間以内)、アセトアミノフェン使用の理由と期間、回数を報告した。

 保護者は出生児が2、3、4歳になった時点で子供の行動チェックリスト(CBCL)を用いて行動を評価した。CBCLは100項目の質問から成り、2つの複合スケール(内向的行動と外向的行動)、さらに症候群サブスケールに分けられている。各質問は3段階(当てはまらない=0点、やや当てはまる=1点、非常に当てはまるまたは当てはまることが多い=2点)で評価し、合計スコアが高いほど子供の行動に問題が多いとされる。

 多変量一般化線形回帰モデルを用いて、妊娠第1〜3期、および全妊娠期間中のアセトアミノフェンの曝露量と、各年齢における子供の注意力問題、注意欠陥多動性障害(ADHD)問題、内向的・外向的行動、総合問題スコアとの関連を評価した。

妊娠第2期の曝露が、子の注意力低下と最も関連

 母親の人口統計学的背景は、子供が2歳時(268例)、3歳時(240例)、4歳時(180例)を通じてほぼ同様だった。

 母親の70.5%が妊娠中にアセトアミノフェンを含む薬を少なくとも1回使用し、妊娠第1期で58.3%、第2期で52.9%、第3期では36.3%だった。アセトアミノフェンの使用は、単独が最も多く(76.1%)、理由は鎮痛目的が最も多かった(62.3%)。

 解析の結果、おおむね、妊娠中のアセトアミノフェンへの曝露量が多いほど、子供の年齢や性にかかわらず注意力問題に関するスコアの上昇が認められた。

 全妊娠期間の累積曝露量が多いほど、2歳および3歳時での注意力問題(2歳:β=0.004、95%CI 0.001〜0.008、3歳:β=0.004、同0.001〜0.007)およびADHD問題(2歳:β=0.004、同-0.001〜0.009、3歳:β=0.006、同0.001〜0.010)のスコアが高かった。

 特に妊娠第2期のアセトアミノフェン曝露量が多いほど、2歳時と3歳時での注意力問題(2歳:β=0.009、95%CI 0.003〜0.015、P=0.002、3歳:β=0.009、同0.004〜0.014、P=0.001)、ADHD問題(2歳:β=0.010、同0.002〜0.019、P=0.01)、3歳:β=0.013、同0.005〜0.021、P=0.001)、外向的行動(2歳:β=0.026、同0.004〜0.048、P=0.02、3歳:β=0.025、同0.003〜0.047、P=0.02)、総合問題(2歳:β=0.052、同-0.009〜0.113、P=0.09、3歳:β=0.066、同0.019〜0.112、P=0.006)のスコアが上昇した。また、4歳時での外向的行動(β=0.026、95%CI 0.003〜0.049、P=0.03)と総合問題(β=0.066、同0.011〜0.121、P=0.02)のスコアが上昇した。

エンドカンナビノイド系の発達が阻害される可能性

 最近の研究によると、アセトアミノフェンはエンドカンナビノイド系を介し鎮痛作用を発揮するとされている。この系は脳の発達に重要な役割を果たす。エンドカンナビノイド系はミクログリアを介した免疫調節、細胞の分化、遊走、シナプス形成に関与し、カンナビノイド受容体1(CB1R)は動物モデルで注意欠陥や多動に関連することが示唆されている。

 今回の結果を踏まえ、Woodbury氏らは「妊娠中、特に妊娠第2期のアセトアミノフェン使用による胎内曝露が、出生児の2~4歳時における注意力低下と関連する」と結論。「児の注意力低下は、大脳皮質のエンドカンナビノイド系の発達を阻害することで引き起こされる可能性がある」と説明している。

(今手麻衣)