抗インターロイキン(IL)-4/13受容体抗体デュピルマブは、アトピー性皮膚炎の根本治療薬として期待される一方、投与後に顔面の紅斑が残存する難治症例も報告されている。理化学研究所情報統合本部先端データサイエンスプロジェクトの芦崎晃一氏らは、人工知能(AI)の機械学習による階層的クラスタリングを用いてデュピルマブの治療効果を層別化した上で、紅斑の重症度と関連する因子を検討。年齢、性、乳酸脱水素酵素(LDH)などが関連し、治療経過を高精度に予測できるとJ Eur Acad Dermatol Venereol2024年2月26日オンライン版)に報告した。

早期寛解群、緩徐改善群、残存傾向群に層別化

 芦崎氏らは、野村皮膚科医院(横浜市)で2018年7月~21年7月にデュピルマブ治療を受けた15~71歳のアトピー性皮膚炎患者49例を対象に、顔面の紅斑の評価と分析を実施した。紅斑の重症度は重症度指数(EASI)スコアを用い、2週ごとに最大16週にわたって評価した。また、デュピルマブ投与前と投与後16週目付近で行った血液検査の結果についても検討した。

 まず、デュピルマブ投与前後の紅斑スコアの経過を教師なし機械学習の階層的クラスタリングを用いて分類したところ、早期寛解群、緩徐改善群、残存傾向群に大別できた(図1)。

図1.デュピルマブ治療による顔面の紅斑症状経過の時間変化パターン

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LDHはデュピルマブ投与前後で特徴的な変化

 続いて、年齢、性、血液検査データからデュピルマブの治療効果予測に重要な因子を特定するため、教師あり機械学習手法である勾配ブースティング決定木のLightGBMで予測モデルを構築し、各因子の変数重要度を算出。モデルの精度は受信者動作特性(ROC)解析の曲線下面積(AUC)で評価した。

 早期寛解群と残存傾向群を比較した2クラス分類モデルのAUCは0.86と、高い精度を示した。10歳代、40歳代、50歳代、男性で残存傾向が高かった。また、検査データにおける重要な因子として、LDH、IgE、好酸球、白血球、ハンノキアレルギー、スギアレルギーの6つが挙げられ、早期寛解群と比べ残存傾向群ではデュピルマブ投与前の値が高かった。特にLDHは投与前後で特徴的な変化が認められ、投与前の中央値は早期寛解群の方が低かったのに対し、投与後には残存傾向群の方が低い傾向を示した(図2)。以上の結果から、これらの因子がデュピルマブの治療効果を予測する指標として利用できる可能性が示唆された。

図2.検査データに基づくデュピルマブの効果予測因子

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視覚化することでモデルの予測を直感的に理解

 さらに芦崎氏らは、代理モデルを用いて勾配ブースティング決定木による分類の視覚化を行った。代理決定木の視覚化で、治療前のデータからどのように分岐して治療経過を予測するかを図示でき、患者が早期寛解群と残存傾向群のどちらに属するかの予測を直感的に理解することが可能となる(図3)。

図3.モデル解釈のための代理決定木の視覚化

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(図1~3とも理化学研究所プレスリリースより)

 同氏らは「今回の基礎研究は、アトピー性皮膚炎治療だけでなく、さまざまな治療選択における将来の医療支援ツール開発のための実質的な基盤を提供し、個別化された治療アプローチの実現と臨床現場での意思決定の有効性を高めることが期待できる」と結論している。

(編集部)