全ての介護施設で4月から、感染症や自然災害に備えた事業継続計画(BCP)の策定が義務となる。8割以上で作成が進む中、いざという時に実効性を持たせることが重要だ。専門家は大規模災害に備え「日頃から地域と福祉がつながることが課題だ」と指摘する。
 厚生労働省は、被災時の介護事業者の役割として▽サービスの継続▽職員・利用者の安全確保▽地域への貢献―を列挙。跡見学園女子大学の鍵屋一教授は「福祉のBCPは命と尊厳と暮らしがかかっており、より重要性が高い」と語る。
 しかし、作って終わりではない。厚労省は自然災害のBCPガイドラインで、地域の人々と共同で防災訓練に取り組むことが望ましいとしているが、同省が昨年1万事業者に行った調査(有効回答率52%)では、約半数の施設が訓練に「地域住民の参加を求めておらず、参加はない」と回答。「必要性を感じない」との意見もあり、必ずしも浸透していない。
 鍵屋氏は「実効性を伴うにはシミュレーションや訓練で課題を発見し、対策を考えるプロセスを繰り返す」作業が必要と説く。
 BCPは自治体のハザードマップや被害想定を踏まえて事業者が作る。しかし能登半島地震が起きた石川県では、地震被害の想定を1995~97年の調査から更新しておらず、同半島北方沖で想定される地震は「ごく局所的な災害で、災害度は低い」との評価にとどまっていた。
 震度6強を観測した穴水町の地域密着型サービスの施設管理者はBCPを作っていたものの「ここまで大きな被害は想定していなかった」と話す。建物の損壊は小さかったが、地中の水道管が壊れ、断水が長期化。排せつや入浴のケアを十分行えず、入所者は全員金沢市などに避難した。
 想定が甘いと対策の緩みにつながりかねず、鍵屋氏は「科学的に根拠のある被害想定を作るのは行政の大きな責務だ」として、今回の地震を機に、各地で最新の知見に基づいて被害想定が見直されることを期待する。 (C)時事通信社