台湾・National Cheng Kung UniversityのJia-Chian Hu氏らは、2型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)の合併患者1万3,799例を対象に、SGLT2阻害薬の貧血抑制効果を検討する多施設共同後ろ向きコホート研究を実施。その結果、GLP-1受容体作動薬と比べてSGLT2阻害薬は、2型糖尿病合併CKD患者における貧血の発生リスクを19%低下させたとJAMA Netw Open(2024; 7: e240946)に報告した。
先行研究より実臨床に近い条件で患者を組み入れ
2型糖尿病とCKDの合併患者を対象としたCREDENCE試験およびDAPA-CKD試験の事後解析では、SGLT2阻害薬による貧血リスクの低下が示されている。しかし、重度の蛋白尿を呈する患者を対象とするなど厳格な適格要件が設けられており、実臨床でSGLT2阻害薬の適応となるCKD患者には一般化できない可能性がある。
そこでHu氏らは、より実臨床に即した2型糖尿病とCKDの合併患者を対象に、SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬投与による貧血抑制効果を検討するため、台湾最大の医療データベースChan Gung Research Databaseを用いてコホート研究を実施した。
対象は、HbA1c値6.5%以上(総ヘモグロビンの割合に換算する場合は0.01を乗じる)の2型糖尿病とステージ1~3のCKDを合併し、2016年1月1日~21年12月31日にSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬の投与を開始した18歳以上の患者。一般化可能な2型糖尿病とCKDの合併集団を含めるため、診断日(初回の薬剤処方日)から1年以内の最新の検査結果を基に、①推算糸球体濾過量(eGFR)30~60mL/分/1.73m2または②同60mL/分/1.73m2超かつ尿中アルブミン/クレアチニン比30mg/g超―の患者を選別した。
診断日以前にアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬またはACE阻害薬が投与されていた者は、2型糖尿病患者においてこれらの薬剤の過少使用が報告されていることを踏まえ除外し、糖尿病ケトアシドーシスまたは1型糖尿病、ネフローゼ症候群、腎移植、がん、HIV感染例なども除外した。
主要評価項目は、貧血イベントの発生(ヘモグロビン値12〜13g/dL未満または国際疾病分類第10版改訂版の診断コードに準拠)と貧血治療開始の複合(複合貧血アウトカム)とした。さらに、血液学的指標(ヘモグロビン値、ヘマトクリット値、赤血球数)の変化を3年間追跡した。
SGLT2阻害薬群で貧血イベントが21%低下、Hb値や赤血球数は維持
解析対象は、SGLT2阻害薬群1万2,331例(平均年齢62.4±12.3歳、男性61.2%)、GLP-1受容体作動薬群1,468例(同61.5±13.3歳、61.3%)の計1万3,799例。
中央値で2.5年の追跡期間中に、複合貧血アウトカムはSGLT2阻害薬群で2,887件、GLP-1 受容体作動薬群で429件発生。解析の結果、発生リスクはSGLT2阻害薬群で有意に19%低かった〔ハザード比(HR)0.81、95%CI 0.73〜0.90〕。
SGLT2阻害薬は、貧血イベント発生率の低下と有意に関連していたが(HR 0.79、95%CI 0.71〜0.87)、貧血治療開始との関連は認められなかった(同0.99、0.83〜1.19)。
SGLT2阻害薬群におけるベースライン時のヘモグロビン値(中央値13.8g/dL)、ヘマトクリット値(同41.0%)、赤血球数(同4.7×106/μL)は、GLP-1受動態作動薬群(それぞれ13.9g/dL、41.5%、4.7×106/μL)と同様であった。追跡期間中、これらの血液学的指標にSGLT2阻害薬群で変化はなかったが、GLP-1受動体作動薬群では低下した。一方、両群で血糖コントロールおよび腎機能の変化に差はなかった。
以上を踏まえ、Hu氏らは「糖尿病合併CKD患者において、GLP-1受容体作動薬と比べSGLT2阻害薬は、複合貧血アウトカムの発生リスクを19%有意に低下させることが示唆された。この結果は、3年の追跡期間を通じ両群で有意差を示した血液検査指標の変化によっても支持された。さらに、両群の血糖コントロールと腎機能の変化は類似していたため、SGLT2阻害薬投与による貧血リスク低下の機序は、これらの因子とは無関係と考えられる」と結論している。
(今手麻衣)