マイクロプラスチックおよびナノプラスチック(MNP)による環境汚染は以前から問題になっているが、MNPがヒトの健康に影響を及ぼすかどうかについては明確な答えは出ていない。イタリア・University of Campania "Luigi Vanvitelli"のRaffaele Marfella氏らは、MNPが心血管イベントリスクを上昇させる可能性を示唆する前向き多施設観察研究の結果をN Engl J Med(2024; 390: 900-910)に報告した。

切除プラーク検体中のMNPを検出

 プラスチックの生産は増加の一途をたどっており、この傾向は2050年まで続くとの予測もある(Sci Adv 2017; 3: e1700782)。MNPが消化や呼吸、皮膚への曝露を通じてヒトの体内に侵入するという報告もあるが、ヒトの血管病変への侵入や心血管疾患との関連を支持するエビデンスはない。

 そこでMarfella氏らは今回、頸動脈内膜剥離術(CEA)を予定している無症候性の内頸動脈狭窄症患者を対象とした前向き観察研究を実施。術後のアテローム(プラーク)検体を、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析(Py-GC/MS)、電子顕微鏡、安定同位体分析により詳細に検討。プラーク検体内にMNPが検出された患者(MNP群)と検出されなかった患者(非MNP群)を追跡し、心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、死亡の複合)発生率を比較した。

検出された粒子は外来の人工物

 対象は内頸動脈に70%超の高度狭窄を有する18~75歳の患者257例。150例(58.4%、MNP群)のプラーク検体からポリエチレンが検出され、このうち31例(12.1%)の検体からはポリ塩化ビニルが検出された。Py-GC/MSの結果、プラーク1mg当たりのポリエチレンとポリ塩化ビニルの平均値はそれぞれ21.7±24.5μg、5.2±2.4μgであった。

 また、ランダムに抽出した10検体を透過電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡で撮像したところ、泡沫状マクロファージの中に、ギザギザの縁を有する外来粒子が確認された。

 さらに、石油由来のプラスチックのδ13C値(炭素12/13存在比)はヒト組織のδ13C値よりも低いことから、ランダムに抽出した26検体に対し安定同位体分析を実施し、MNPの存在を示唆する値を得た。

MNP群の心血管イベントHRは4.5

 MNP群150例〔年齢中央値71歳(四分位範囲65~75歳)、男性116例)、非MNP群107例〔同73歳(67~77歳)、79例〕を、術後33.7±6.9カ月間追跡した結果、心血管イベントの発生は、非MNP群(107例)の8例(7.5%、100患者・年当たり2.2イベント)に対し、MNP群では30例(20.6%、同6.1イベント)だった。

 心血管危険因子を調整後のCox回帰分析の結果、ハザード比(HR)は4.53(95%CI 2.00~10.27、P<0.001)となった。

心血管危険因子としての役割は大きくない?

 以上の結果をまとめてMarfella氏らは「CEAで切除したプラーク検体からMNPが検出された患者では、検出されなかった患者に比べ、34カ月後の心血管イベント発生リスクが高かった」と結論。

 ただし、①検査室での汚染(contamination)を完全には否定できない、②収入や教育を含む社会経済的因子に関するデータがない、③患者の食事や飲料に関する情報は得られていない―ことは研究の限界としている。

 さらに、プラスチックへの曝露が増加したと考えられる過去数十年間に心血管死亡率は低下しているとの報告(Circulation 2015; 132: 997-1002)があることから「心血管疾患リスクとしてのMNPの役割は、伝統的な危険因子と比べると限定的であるかもしれない」と付言している。

(木本 治)