日本は世界で最も高齢化が進んでおり、総務省が2022年に行った調査では、65歳以上の人口は3,627万人と総人口の29.1%を占める(高齢化率2位のイタリアは1,420万人、24.1%)。高齢者では複数の疾患を併存する割合が多く、特に透析患者は安全性の観点から造影剤を使用した画像検査による合併症の早期発見・介入が困難なため、発症予防が課題となっている。画像診断用造影剤・医療機器メーカーのブラッコ・ジャパンは4月15日、イタリア大使館との共同セミナーを開催。高齢社会における透析医療および造影検査の意義や課題などについて、日本腎代替療法医療専門職推進協会(JRRTA)理事長で埼玉医科大学総合診療内科教授の中元秀友氏、医師で公明党参議院議員の秋野公造氏らが講演した(関連記事:「特定健診受診率が高い県は透析導入率低い」)。

透析患者の平均年齢は71歳

 2022年の日本透析医学会統計調査によると、日本の透析患者数は34万7,474例(平均年齢69.87歳)に上る。年齢別に見た透析の新規導入数は、2017年に比べ70歳以上で増加、導入患者の平均年齢は71.42歳となり、高齢透析患者のQOL向上および健康寿命の延伸が求められている。

 疾患の早期発見・介入は患者の健康維持において重要とされる。中元氏は腎疾患患者に対する検査について、造影剤などの医薬品と腎臓には強い関係があると述べた上で、「浸透圧が高くない、安全性の高い造影剤が普及したおかげで、腎疾患患者においても画像検査可能なケースが増えてきた」と医療資源の充実を評価。一方、腎機能が低下した透析患者については今なお造影剤を使用した検査が難しい場合が多く、予後改善を図る上での課題だとした。

 日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)理事長で帝京大学内科主任教授の上妻謙氏は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)施行例における造影剤の使用について、自施設で年間200件以上手術を実施していると述べ、「年に数例は腎機能が低下した患者を対象とすることがある。やむをえず造影剤を使わないTAVIを行っている」と説明。「腎機能低下例にも使えるようになることが期待される。革新的な造影剤、造影システムの開発が待たれる」と展望した。

 日本医学放射線学会(JRS)理事長で順天堂大学健康データサイエンス学部長/同大学大学院人体の再生・再建 放射線診断学主任教授の青木茂樹氏は、日本は人口当たりのCT機器台数が世界最多で、検査へのアクセスが容易な国であると説明。その上で、「CTを十分に活用していく上で最も重要なのは造影剤の安定的な供給。放射線科医としては、多科連携はもちろん、製薬業界とも協力して患者の予後改善を図っていきたい」との考えを示した。

 イタリア・Bracco Imaging S.p.A. 最高経営責任者(CEO)のFulvio R. Bracco氏は「日本の医療環境における固有の課題解決に取り組み、貢献していきたい」とコメントした。

透析医療ではSDMが重要

 患者のQOL向上には、治療だけでなく意思決定の補助を含めたケアが重要とされる。秋野氏は、透析患者における下肢切断後1年の生命予後は約50%であると説明。その上で、「重症化を予防し社会復帰を可能とするには、透析患者でもがんや心血管疾患といった併存疾患の早期発見と治療が重要である。その実現には、造影剤を用いる検査を行うことが患者にとってどのような意味を持つのかを十分に整理する必要がある」と述べ、透析導入時などにおける患者への情報提供の重要性を指摘した。

 腎疾患の患者団体であるNPO法人腎臓サポート協会(KSA)代表の雁瀬美佐氏は「疾患の情報や理解がないまま治療や手術に臨んだ結果、後悔している患者を多く見てきた。知らされないこと、知らないことが患者の不利益になってはいけない」と強調した。

 医療の在り方について、秋野氏は「治療の効率化だけでなく、発症前と同じような生活を送ることができるという価値も含めて考えることが大切。QOLの向上には共同意思決定(shared decision making;SDM)が不可欠である」と結んだ。

(小田周平)