ヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用し、肝細胞に胆管のような構造が組み合わさった組織を実験容器内で生み出したと、国立国際医療研究センターと東京大の研究チームが5日までに発表した。この「肝胆オルガノイド」は新薬開発の際、薬物の毒性や効果を調べるのに使える可能性があるという。
 薬物は肝臓で代謝された後、胆管から胆汁に、腎臓からは尿に排出される。新薬開発では、マウスやラットなどの動物や、培養したヒト肝細胞で代謝の過程や毒性を調べる実験が行われるが、動物ではヒトとの違いが大きく、培養肝細胞では胆汁に排出される流れを再現できない。
 同センターの田中稔室長らは、胎児で肝臓ができる前段階の「肝芽細胞」をiPS細胞から生み出した後、実験容器内での培養方法を工夫し、平面的な肝細胞群と立体的な胆管のような構造に分けて誘導する技術を開発していた。今回さらに改良し、肝細胞群の上面を胆管構造が覆う形で一体的に培養することに成功した。
 実際に薬物を加えると、肝細胞から胆汁が胆管構造に流れる様子を観察できた。また、重い毒性が判明して販売中止になった糖尿病治療薬を試すと、胆汁の流れが阻害され、肝細胞が死滅することを確認できた。論文は国際的な科学誌バイオマテリアルズに掲載された。 (C)時事通信社