レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬には、慢性腎臓病(CKD)患者の腎予後改善が認められているが、副作用のために中止されるケースが少なくない。また、中止後の再開が転帰に及ぼす影響は明らかでない。大阪大学大学院腎臓内科学の服部洸輝氏〔現:淀川キリスト教病院(大阪市)腎臓内科医長〕らは、保存期CKD患者のリアルワールドデータベース〔The Osaka Consortium for Kidney disease Research(OCKR)〕を用いてRAS阻害薬投与中止例を対象に予後の調査・解析を実施。RAS阻害薬の再開は、腎・生命予後の有意な改善と関連することが明らかになったと、J Am Soc Nephrol2024年6月18日オンライン版)に発表した。(関連記事「どうする?進行性CKD患者へのRAS阻害薬」)

平均年齢66歳の6,065例が対象

 日本のCKD患者は1,480万人と推計されており、超高齢社会における新たな国民病ともいわれている。ACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)といったRAS阻害薬は、降圧効果に加えて心・腎保護効果も有することから、CKD薬物療法の中心となっている。一方で、高カリウム血症や急性腎障害などの副作用による中止例の多い点が課題となっている。RAS阻害薬の中止はCKDの進行や死亡との関連が報告されており、再開が望ましい可能性はあるが、客観的データによる研究は不足している。

 そこで服部氏らは、OCKRから2005~21年にRAS阻害薬の投与を中止し推算糸球体濾過量(eGFR)が10~60mL/分/1.73m2の保存期CKD患者6,065例(平均年齢66±15歳、男性62%、平均eGFR 40±26mL/分/1.73 m2)を抽出。target trial emulation(観察データを基にランダム化比較試験を模倣する手法)を用い、RAS阻害薬中止後1年以内の再開の有無と予後との関連を検討する後ろ向き研究を実施した。

複合腎アウトカムリスクが15%、全死亡リスクが30%有意に低下

 2,262例(37%)が中止後1年以内にRAS阻害薬を再開していた。非再開群と比べ、再開群は複合腎アウトカム(腎代替療法の開始、eGFRが50%以上低下、同5mL/分/1.73m2未満への低下)のリスクが15%〔ハザード比(HR)0.85、95%CI 0.78~0.93〕、全死亡のリスクが30%(同0.70、0.61~0.80)、いずれも有意に低かった(図-左、中)。高カリウム血症(血清カリウム濃度5.5mEq/L以上)のリスクに差はなかった(同1.11、0.96~1.27、図-右)。

図.RAS阻害薬中止からの月数と複合腎アウトカム、全死亡、高カリウム血症との関連

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(大阪大学プレスリリースより)

 服部氏らは「保存期CKD患者では、RAS阻害薬中止後1年以内の再開により末期腎不全への進行や死亡のリスクが低下し、良好な腎・生命予後と関連することを明らかにした」と結論。ただし、「RAS阻害薬中止前の3カ月間に急速な腎機能低下(eGFR低下率30%以上)や急性腎障害が見られたサブグループでは、投与再開と腎・生命予後との関連が消失した。こうした患者では再開のメリットが減弱する可能性もある」と付言している。

(小暮秀和)