東アフリカ地域経済の中心的役割を担うケニア。地熱発電などの電力普及が進むが、農村部では依然として木炭やまきが調理用燃料に使われており、煙による呼吸器疾患が深刻だ。被害に遭うのは料理をする女性や家で過ごす子どもたち。煙害を撲滅すべく安価で安全なバイオ燃料を開発した女性起業家のイボンヌ・モーセさん(27)が、オンラインでのインタビューに応じた。
 ◇年間60万人が犠牲
 アフリカ開発銀行の推計では、アフリカで年間約60万人の女性や子どもが調理に伴う煙害により死亡。国連開発計画(UNDP)によると、途上国の農村部に住む貧困層を中心に、女児や女性がまき拾いに1日最大5時間を費やしており、教育機会を失っている。
 天然資源管理の学士号を取得したモーセさんは、再生可能エネルギー業界での勤務経験を生かし、2019年にケニア南西部キシー郡で「モマ・リニューアブル・エナジー」を設立。「良い教育を受けさせるため一生懸命働いてくれた両親は、給料の高い仕事を辞めることに懐疑的だったが、今では一番の支援者だ」と話す。
 モーセさんは食品加工業者や農家らと協力し、売り物にならなくなった果実や芋など、でんぷんや糖分を豊富に含む廃棄物からエタノールを製造。工業用や低所得者層向けに販売している。
 小売価格は1リットル当たり90ケニア・シリング(約104円)で、木炭3キロ分(約300シリング)のエネルギーに相当。一般家庭の消費量は週に1.5リットル程度だという。
 ◇根強い偏見
 モーセさんは現在、22人を直接雇用し、地域経済に貢献している。女性を積極的に採用しており、製造部門の8割が女性だ。事業拡大に向け、資金調達を検討している。
 女性起業家に対する国の補助金は最大2万ドル(約300万円)。しかし女性に対する偏見が根強く、補助金以外の資金調達は容易でない。「『妊娠中にどう会社を率いるのか』と問われた女性もいる。私も世間からは、そろそろ子どもを持つ年齢だと思われている」。
 それでも、女性に対する社会の見方は「変わりつつある」と前向きだ。「男性中心のエネルギー業界で女性主導の企業例になることを誇りに思う」と語り、バイオ燃料事業を通じた女性の地位向上を誓った。(時事)
 【編集後記】街にあふれていた廃棄物を、女性を救う燃料に変えるという発想は「(酸っぱい)レモンを与えられたらレモネードを作れ(ピンチはチャンス)」を体現しているようで、引き込まれた。暴力を受けた女性の社会復帰や農家支援など、書き切れないほど多様な側面から地域の課題解決に向き合う姿に、経済成長を続けるケニアの力強さを感じた。「簡単な道のりではないが、進み続けることが肝心だ」と話すモーセさんが切り開く未来のケニアを、いつか訪れたい。(時事通信社外国経済部記者・小林葵)。 (C)時事通信社