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「痔」って本当は怖いの? 知られざる肛門トラブルの真実 【第1回】

 「痔(じ)」という言葉を聞くと、どこか恥ずかしい気持ちになったり、深刻な病気ではないと感じたりする方が多いかもしれません。しかし、痔は非常に一般的な症状であり、日本人の3人に1人が一生のうちに経験すると言われています。

 その原因は、排便時の「息み」や生活習慣の乱れなど、日常生活の中に潜んでいます。今回は「痔」の種類、特徴、進行度合いに応じた対応について詳しく解説し、早期発見と適切な対処の重要性をお伝えします。

痔のしくみ

痔のしくみ

 ◇痔の基本=何が起きているのか?

 痔とは、肛門や直腸周囲の血管や組織に異常が生じた状態の総称です。肛門は、排便をコントロールするための重要な役割を果たしていますが、ここに血流の異常や圧力がかかることで痔が発生します。

 痔は以下の3種類に分けられます。それぞれの特徴と原因を知ることで、早期対応が可能になります。

 ①痔核(いぼ痔)

 痔核は、肛門周囲の静脈が膨らんでできる症状です。内痔核と外痔核に分類されます。

 • 内痔核:肛門内に発生するため、初期段階では痛みを伴わないことが多いですが、排便時の出血が見られる場合があります。進行すると「脱出」と呼ばれる状態になり、肛門外に痔核が飛び出します。初期では手で押し戻すことができますが、重症化すると戻らなくなり、手術が必要になることがあります。

 • 外痔核:肛門外側にできるため、痛みが強く、座るのが困難になることもあります。特に血栓ができると、腫れと激しい痛みを伴います。

 裂肛(切れ痔)

 硬い便や排便時の強い「息み」によって肛門が裂ける状態です。裂肛は鋭い痛みと出血を特徴とし、慢性化すると傷が治りにくくなります。また、肛門の筋肉が硬直しやすくなるため、さらに症状が悪化することがあります。

 ③痔ろう

 痔ろうは、肛門腺に感染が起きた結果、膿がたまり、肛門と皮膚をつなぐトンネル(瘻孔=ろうこう)が形成される状態です。自然治癒することはほとんどなく、手術による治療が必要になります。

 ◇痔の進行度と症状

 痔の症状は放置すると進行し、治療が複雑になる場合があります。進行度ごとに症状と対策を確認してみましょう。

 【初期段階】

 症状:軽い出血や違和感が見られる程度。痛みはほとんどありません。

 対策:この段階では、食生活の改善や適度な運動を取り入れることで症状を抑えることが可能です。

 【中期段階】

 症状:痔核の脱出や、排便時に激しい痛みを感じるようになります。裂肛の場合は、排便後も痛みが続くことがあります。

 対策:医療機関での治療が必要になることが多いです。場合によっては、薬物療法や注射療法を検討します。

 【重度】

 症状:痔核が常に脱出している、裂肛が慢性化して感染症を引き起こしているなど。

 対策:この段階では外科的処置が必要です。ALTA療法や結紮(けっさつ)療法(ゴムバンドによる結紮)、場合によっては痔核切除手術が行われます。

スマホをトイレに持ち込む習慣はやめよう

スマホをトイレに持ち込む習慣はやめよう

 ◇セルフケアの重要性

 痔の予防や症状の軽減には、日常生活でのセルフケアが非常に重要です。以下の方法を取り入れることで、肛門の負担を軽減することができます。

 【食生活を整える】

 ポイント:食物繊維を多く含む食品を摂取し、便通を整えましょう。また、水分摂取も忘れずに行うことで、便を軟らかくする効果があります。

 具体例:朝食にオートミールとフルーツを取り入れたり、昼食には野菜たっぷりのスープを加えたりするなどの工夫が効果的です。

 【トイレ習慣を見直す】

 ポイント:便意を感じたら我慢せず、適切なタイミングで排便する習慣をつけましょう。また、トイレでの長時間滞在は肛門への圧力を増加させるため、避けるべきです。

 具体例 :スマートフォンをトイレに持ち込む習慣をやめることから始めてみましょう。

 【肛門周辺を温める】

 ポイント:温浴や座浴を行うことで血流を促進し、症状を軽減します。

 具体例 :専用の温浴器具を使うことで、自宅でも手軽に肛門ケアが可能です。

 【ストレス管理】

 ポイント:ストレスは腸の動きに悪影響を与えるため、リラックスできる時間を意識的につくりましょう。

 具体例 :趣味や適度な運動、呼吸法を取り入れてリラックスを促進します。

 ◇医療機関を受診するタイミング

 痔の症状が悪化した場合やセルフケアでは改善が見られない場合、早めに医療機関を受診することが大切です。以下のような場合は受診を検討してください。

 • 出血が頻繁にある場合

 • 痔核が脱出して戻らない場合

 • 激しい痛みが続く場合

 • 膿が出る、または腫れが見られる場合

 痔は非常に一般的な疾患であり、適切なケアと治療で改善が可能です。日常生活の中で予防策を取り入れ、症状が出た際は早期に対応することで生活の質を守ることができます。次回は、痔と密接な関係を持つ便秘について掘り下げていきます。(了)

鈴木隆二医師

鈴木隆二医師


 鈴木隆二(すずき・りゅうじ) 医療法人社団筑三会理事長、消化器外科専門医(筑波胃腸病院、千葉柏駅前胃と大腸肛門の内視鏡日帰り手術クリニック・健診プラザ)。聖マリアンナ医科大学卒業。東京女子医科大学消化器病センター助教を経て、20年現理事長に就任。日本消化器内視鏡学会専門医、日本外科学会専門医、麻酔科標榜医、産業医、難病指定医。経営では医療DXに注視し、多数の取材・本を出版している。

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