教えて!けいゆう先生

間違ったがん治療のイメージとは
医師が伝えるべきこと

 がん(悪性新生物)は今や、わが国で最も多くの命を奪っている病気です。それだけに治療の進歩も著しく、数年前の常識が今では当てはまらない、ということがよくあります。今回は、がん治療においてよくある誤ったイメージを三つまとめます。

 ◇抗がん剤治療は多様化

 化学療法(抗がん剤治療)は、がん治療の根幹をなす一つの重要な手段です。がんの治療を受ける方の多くが、抗がん剤治療を経験します。この抗がん剤治療に対しては、「入院して点滴をするものだ」と考えている方が多いのではないでしょうか。

 確かに、今でも入院が必要な抗がん剤治療はありますが、近年は外来通院で行うのが一般的になりつつあります。病院によっては外来化学療法センターのような部署が設けられており、ここに定期的に通って点滴を受けることも可能です。

 午前中に抗がん剤の点滴を受け、午後から出勤する、という方もいます。

 また、抗がん剤の中には、点滴ではなく飲み薬もたくさんあります。自宅で薬を定期的に飲み、病院で点滴を受けない方も多くいるということです。医学の進歩により、抗がん剤治療は多様化しています。

 以前のドラマなどで見る抗がん剤治療のイメージとは随分違っている、ということに注意が必要です。

 ◇副作用に対する対処法の進歩

 抗がん剤といえば「副作用がつらいもの」というイメージをお持ちの方は多いのではないでしょうか。確かに、がん細胞をやっつける効果を持つ抗がん剤は、体の正常の細胞も攻撃してしまうため、特有の副作用に注意する必要があります

 しかし、現在は副作用を予防したり、上手にコントロールしたりする手段がかなり増えています。例えば、抗がん剤の副作用として頻度の高いものに「吐き気」がありますが、吐き気のリスクが高い抗がん剤を投与する際は、投与前に、あるいは同時に、吐き気を強力に予防できる薬(制吐剤)を使うのが一般的です。

 制吐剤の種類も多種多様で、点滴の製剤もありますし、飲み薬もあります。これらを患者さんの状況に応じて使い分けたり、複数を併用したりすることができます。

 むろん、こうした方法を使っても吐き気を感じてしまう方がいるのは事実ですが、副作用を制御する手段が増えたことは、前述の外来通院による抗がん剤治療を可能にした一つの要因にもなっているのです。

 ◇緩和ケアという言葉

 近年、「緩和ケア」という言葉が広く知られるようになりました。ところが、緩和ケアのことを、がんの末期の患者さんに行われる治療だと思っている人が多くいます。

 実はこれは大きな誤りです。

 緩和ケアの定義は、日本緩和医療学会が運営する「緩和ケア.net」に、「『緩和ケア』は、がんと診断されたときから行う、身体的・精神的な苦痛をやわらげるためのケア」と書かれています。

 「がんと診断されたときから行う」というのが重要です。がん治療を行う上で必要となる、自分らしい生活を送るためのあらゆるサポートを含む概念、と考えると分かりやすいと思います。

 抗がん剤治療を受けながら、同時に緩和ケアも受ける、というのは至極自然な姿です。がん治療を続け、効果がなくなったら「緩和ケアに移行する」というのは、現実に即した表現ではないことに注意が必要なのです。(医師・山本健人)

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