難聴や耳鳴りが表れる「耳硬化症」
手術で聴力が劇的に回復
鼓膜の振動を内耳に伝えるアブミ骨が、周囲の骨に付着して動きにくくなり、音が伝わりにくくなる「耳硬化症」。思春期に発症する例が多く、徐々に進行し、難聴や耳鳴りなどが表れる。三井記念病院(東京都千代田区)耳鼻咽喉科の奥野妙子特任顧問に聞いた。
▽音の振動が伝わらなくなる
耳の中には三つの小さな骨で構成される「耳小骨」という骨があり、鼓膜の振動を内耳に伝えている。内耳に最も近い位置にあるのが「アブミ骨」だ。
奥野医師は「アブミ骨は長さが約4ミリと体の中で最も小さい骨で、内耳にあり聴覚をつかさどる『蝸牛(かぎゅう)』に接しています。アブミ骨が動くことで蝸牛の中のリンパ液に振動が伝わって感覚細胞が刺激され、そこで生じた電気信号が聴神経を通って脳に伝わり、音を感じます」と説明する。
耳硬化症は、アブミ骨が硬くなり、その動きが低下することで聞こえが悪くなる病気だ。片側の耳だけでなく、両耳に発症することもある。原因は不明だが、遺伝的要因も関与するという。
急に聞こえづらくなるのではなく、10~20代から徐々に聴力が低下していくケースが多い。「以前は診断に至らず、中高年以降に難聴が進んで補聴器を使用する人もいました。現在は、若年期に診断がつくようになりました」と奥野医師。
▽治療の第1選択は手術
耳硬化症の治療は、補聴器の使用と、アブミ骨を人工の耳小骨と交換するアブミ骨手術の二つがある。奥野医師は「補聴器も有効ですが、高齢者や全身状態が悪い人でなければ第1選択は手術です」と話す。手術は全身麻酔下で、耳の穴から顕微鏡下で行われるため、切除による傷は残らない。傷口が安定する術後1カ月ほどまでは、重い荷物を持つなど力を入れる行為は控える必要があるが、その後は鼓膜や内耳に圧力がかかるスキューバダイビング以外は行動の制限はないという。
「当院ではテフロン製の人工骨に交換しています。安全面で問題はなく、手術を受けた患者さんは術後20年以上経過しても、通常の生活を送っています」と奥野医師。
耳硬化症は、進行性のため自然治癒は望めないが、手術によって劇的な聴力回復が見込める病気だ。奥野医師は「耳の聞こえが悪くなり、日常生活に支障を来すことも少なくありません。聞こえが悪くなったと感じたら、地域の耳鼻科医に相談し、早期に治療をすることが大切です」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/08/20 07:00)