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新型コロナウイルス感染の検査でCTを安易に使えない理由 井田正博・日本放射線科専門医会理事長

 新型コロナウイルスの感染が広がっています。

 そんな中で、最近発表された論文で、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法の検査で陽性反応が出る前に、コンピューター断層撮影(CT)所見が判明した例があり、CTを撮れば、コロナウイルスの感染の早期発見やスクリーニングができるのでは、という意見も出ています。

新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」【時事通信社】

新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」【時事通信社】

 PCR法の検査が容易には受けられないことから、感染の確認のためにCTを受けようという動きが今後、高まることが予想されています。こうした状況に対して、日本放射線科専門医会は緊急提言をまとめています。同会理事長の井田正博先生に伺いました。

 ◇確実なデータない

 海原 CT検査はコロナウイルスによる肺炎の早期診断に役立つのでは、という見方をどう考えますか。

 井田 
CTは呼吸器疾患のみならず、さまざまな領域の病気の状態を明らかにすることに有用な画像検査法です。

 新型コロナウイルス肺炎のCT所見の報告によりますと、空気を吸い込んだ肺の奥の方に当たる細胞内に、少量の水がたまっている像を呈することから、このウイルスが上気道(鼻の粘膜や咽頭粘膜)、鼻や喉の辺りだけでなく、肺の奥の方でも、増殖することが分かってきました。

 新型コロナウイルス肺炎の診療においては、CTは病変の検出、広がり範囲や重症度の判定、さらに背景にある基礎疾患との因果関係、肺の空気が入る細かな構造部分に水がたまる肺水腫など、合併症の診断に大いに役立つでしょう。

 海原 どの時期にCT検査を受けるのが望ましいでしょうか。

 井田 新型コロナウイルスは、インフルエンザと同様、上気道で増殖するため、感染力が強いのですが、さらに肺内(呼吸細気管支~肺胞)でも増殖することから、肺炎に至りやすいという特徴があります。

 新型コロナウイルスは、感染から最短で4~5日程度、多くは1週間程度で発熱や感冒症状が出現しますが(潜伏期は最大12.5日)、症状出現前の早期にCTで肺炎が検出できるという確実なデータはありません。

 また、発症後も全ての症例で肺炎を併発するわけではありません。

 従って、現段階では「厚生労働省の示す受診の目安」に基づき、帰国者・接触者相談センターから医療機関を受診した段階で、症状や理学所見から、専門医が肺炎を疑い、その存在診断、病勢や重症度判定などの目的でCTが必要と判断した段階で施行することになります。

 「厚生労働省の示す受診の目安」風邪の症状がある人▽37.5度以上の発熱が4日以上持続する人▽強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある人――は帰国者・接触者相談センターに相談するよう呼び掛けている


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