医学の窓辺

低体温療法のエリスロポエチンを介した脳保護効果を解明
~名古屋市立大学~

新生児低酸素性虚血性脳症 (HIE) は脳性麻痺などの後遺症につながる重篤な疾患です。いまのところ有効性が認められているHIE治療法は低体温療法のみです。しかし、低体温療法を行っても約50%は予後不良であり、HIEに対する確実な治療法は未だに確立されていないのが現状です。より効果的で確実な脳保護治療を提案するために、低体温療法の詳細な作用機序の解明が望まれていました。

名古屋市立大学の青山峰芳教授(病態解析学分野)、愛知医科大学の山田恭聖教授(周産期母子医療センター)らの研究グループは、脳内のアストロサイトから分泌される神経保護因子であるエリスロポエチン (EPO) に注目して研究を行いました。HIEを模した刺激を加えるとEPOの量が少なくなり神経傷害的な環境が形成されること、そこに低温刺激を加えるとEPOの量が増加し神経保護的な環境へと改善されることが分かりました。
この結果は脳内のEPO増加に注目した新規脳保護治療につながると期待されます。

【研究成果の概要】

■背景
新生児低酸素性虚血性脳症 (HIE) は胎児の脳血流が途絶することによって生じ、脳性麻痺など重篤な後遺症につながる予後不良疾患です。現在、有効性が確認されている治療は直腸温33.5℃になるように冷却を行う低体温療法のみですが、効果は不十分で作用メカニズムも不明瞭です。特に、エリスロポエチン (EPO) は低酸素条件下で脳内環境維持に働くアストロサイトから分泌される神経保護因子として注目されていますが、HIE病態や低体温療法への関与は不明でした。本研究では低温刺激によるアストロサイトのEPO発現変化とその神経保護効果を検討しました

【図1】酸素・グルコース欠乏ではEPO発現が抑制された


■方法・結果

結果①
HIEでは酸素だけでなくグルコースも欠乏すると考えられます。そこで、ラット初代培養アストロサイトにHIEを模した刺激として酸素グルコース欠乏刺激 (OGD) を加えたところ、神経保護因子EPO発現が抑制されました(図1-A)。このとき、EPOの転写因子であるHIF-2αの発現も抑制されていました(図1-B)

【図2】OGD後の低温群ではEPOの発現が持続した


結果②
酸素グルコース欠乏刺激後に、低体温療法を模した刺激として33.5℃での低温培養を行ったところ、HIF-2αの発現量が上昇し、EPOの発現も上昇しました(図2)。

結果③
酸素グルコース欠乏刺激後のラット初代培養ニューロンを低温群アストロサイト由来培地で培養しました。その結果、低温群由来培地で培養したニューロンのアポトーシスが有意に減少しました。また、EPO中和抗体でEPOのはたらきをブロックすると、アポトーシス抑制効果が消失しました(図3)。このことから、培養液中に増加したEPOの重要性が示されました

【図3】増加したEPOによりニューロンのアポトーシスが抑制された


■考察
HIE病態においてアストロサイトが低酸素・低栄養状態になったとき、エリスロポエチンの産生が乏しいことが示唆された。また、低体温療法を施すことでHIF発現安定化を介してEPO産生が亢進し、神経細胞死が抑制されることが示唆されました。この知見は低体温療法の作用メカニズムに基づいた新規脳保護治療の開発につながるものと考えられます。

■研究助成
本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金(JSPS 科研費16K10101, 17K10197, 18K07832)による助成を受けて行われました。


研究成果は、米国科学誌「Journal of neuroinflammation(ジャーナル・オブ・ニューロインフラメーション)」電子版に 2020年5月2日に掲載
【掲載された論文の詳細】

■掲載誌
Journal of neuroinflammation (ジャーナル・オブ・ニューロインフラメーション)

■論文タイトル
Prolonged astrocyte-derived erythropoietin expression attenuates neuronal damage under hypothermic conditions.
DOI 番号 10.1186/s12974-020-01831-3.

■著者
鳥内皐暉1, 垣田博樹2, 田村哲也3, 竹下覚2, 山田恭聖2 , 青山峰芳1

1.名古屋市立大学 薬学研究科 病態解析学分野
2.愛知医科大学 周産期母子医療センター 新生児集中治療部門
3.名古屋市立大学 医学研究科 麻酔科学・集中治療医学分野

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