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「赤ちゃんとの初めて」大切にマイペース育児
~発育差の不安払拭、低体重児の母親に寄り添う~ リトルベビーハンドブック、発行の動き広がる


体重0キログラムから書き込める

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 ◇「ネットワークが大事」

 LBHの普及や低体重児を産んだ母親の育児サークルへの支援活動を行う国際保健NGOである認定NPO法人「HANDS」(東京都台東区)のテクニカルアドバイザーで、国際母子手帳委員会事務局長の板東あけみさん(71)によると、LBHの発行自治体は静岡県をはじめ、福島、新潟、山梨、茨城、愛知、岐阜、広島、福岡、佐賀、熊本の11県にとどまっている。

 発行がなかなか進まなかった背景について板東さんは、「母親たちが、強い自責の念を持ち、悲しさや不安、混乱の中でなかなか大きな声を上げられなかったことや、小さく生まれる赤ちゃんが相対的に少ないこともあり、切実な思いが今まで社会や行政に届きにくかったのでは」と分析する。

 板東さんは「LBHには同じ経験をした『先輩』からのコメントも多く載せられており、安心感や将来への期待感が得られる。不安でいっぱいの母親にとって、『寄り添ってくれる人がいる。自分は一人ではない』と感じさせてくれる存在になってほしい。何よりLBHの作成過程で、行政、医療関係者など関わった人たちとの間に相互理解が生まれたり、母親たちが全国的なネットワークでつながったりできることが非常に大切。地元に育児サークルがある場合はサークルとつながって孤立感を解消できる」と、LBHの利点を訴える。


国際母子手帳委員会事務局長の坂東さん

国際母子手帳委員会事務局長の坂東さん

 ◇つらい思いの母親、「平等」にケアを

 自身も02年に466㌘と927㌘の女の子の双子の小さな赤ちゃんを出産した経験があるポコアポコの小林さんは、「始めた時は、これほど広がりを見せるとは全然思っていなかった。LBHの広がりは率直にうれしい」と静かに当時を振り返る。

 その上で、「作ったら終わり、ではなくてLBHというツールを使って、お母さんを子育ての不安で孤独にしないために、病院の先生、看護師、保健師、幼稚園や保育園、小学校の先生もみんながLBHで情報を共有し、LBHを見れば、お母さんの口からは出なくても、子どもの育ちや、その苦労が分かるようなものになってほしい」と訴える。

 また「小さな赤ちゃんを産んだ母親について、保健師さんは『気軽に悩みを話して』と言うが、話せない。誰とも会いたくないし、優しい言葉も掛けられたくないというほど孤立したお母さんがたくさんいるのが現状。本当に困っているお母さんほど、つらい思いを表に出せないし、母親サークルにも顔を出せず、一人で悩んでいることが多い。誰にでもLBHが行き渡り、全国どこの都道府県で産んでも、同じように温かい支援が受けられる『平等性』が何より大事だと思う」と指摘。今後は「各地でLBHがどのように作られて、どのように活用されるかを見届けていきたい」と話す。

今年、成人を迎え二十歳になった優衣さん(左)、小林さとみさん(中央)、愛彩さん(右)

今年、成人を迎え二十歳になった優衣さん(左)、小林さとみさん(中央)、愛彩さん(右)

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 しずおかLBHの冒頭には「小さな赤ちゃんのママになったあなたへ」という小林さんからのメッセージが記されている。

 「赤ちゃんが生まれてからは小さいことを気にして周りの子と比べてばかりいた。体重を少しでも増やしたくて、体重計とにらめっこ。絶望感をすべて否定して『生きる』強さを教えてくれたこの子。してあげたいことが溢れてしまった時も、この子は『じぶんで!』と私の手を払いのけた。私たちは小さな赤ちゃんに育てられている」〔一部を抜粋〕(時事通信社「厚生福祉」2022年11月08日号より転載)

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