治療・予防

全身麻酔に伴う病気
~悪性高熱症―遺伝性(キッコーマン総合病院 市原靖子部長)~

 外科手術で全身麻酔をした際に起こる遺伝性の「悪性高熱症」。症状や予防策について、キッコーマン総合病院(千葉県野田市)麻酔科の市原靖子部長に話を聞いた。

悪性高熱症

悪性高熱症

◇体が硬直し高体温に

 全身麻酔には、気体を吸い込む吸入麻酔と、静脈から投与する静脈麻酔がある。悪性高熱症は吸入麻酔薬でのみ起こる。発症頻度は全身麻酔を受けた人の5万~10万人に1人とごくまれだが、万一発症すると命に関わる。

 症状は、筋肉の異常な収縮と体温上昇。筋肉が収縮して力を出すには、筋肉内に貯蔵されたカルシウムが放出される。悪性高熱症では、吸入麻酔薬に反応してカルシウムの放出が止まらなくなり、筋肉の収縮により体が硬直する。

 「筋肉が収縮すると代謝が盛んになるため、体温が上がる。どんどん上昇し、40度を超えます」。収縮が続くと筋細胞が壊れ、細胞内の物質が血中に放出されて腎臓に負担が掛かり、腎障害が起こることもある。

 ◇遺伝子変異が原因

 発症した場合は直ちに吸入麻酔薬を中止し、筋肉を弛緩(しかん)させる「ダントロレン」という薬を投与する。同時に体を冷却したり、人工呼吸器で酸素を補ったりなどの処置を行う。「薬を点滴するための準備や、手術中であれば患者さんの麻酔が覚めないように麻酔薬を切り替える必要があるなど、多くの人手を要する困難な治療になります。悪性高熱症は『麻酔科医の悪夢』と呼ばれるほどです」

 主な原因は、筋肉内のカルシウムの貯蔵部位庫にある受容体(RyR1)の遺伝子変異と分かっている。遺伝的素因があるかどうかは、筋肉を一部切除する検査で診断できるが、体への負担が大きいという。

 予防のためには、家族(既往)歴の把握が何より重要だ。「自分や血縁者が全身麻酔で異常を来したことがあれば、必ず手術前に医師に話してください。なお、重症の熱中症を起こした人の中に、まれに悪性高熱症の遺伝的素因を持つ人がいます。悪性高熱症と同じメカニズムで、体温調節ができなくなるのが原因と考えられています」(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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