強い痛み止めが米国で問題に
オピオイドクライシス(独協医科大学病院麻酔科 山口重樹教授)
「オピオイド鎮痛薬」と呼ばれる麻薬系の強力な痛み止めをめぐり、米国では不適切な使用で死亡者が出るなど社会問題となっている。「オピオイドクライシス」について独協医科大学病院(栃木県壬生町)麻酔科の山口重樹教授に聞いた。
米国でオピオイド乱用が社会問題化し、2017年10月に「公衆衛生に関する緊急事態」を宣言したトランプ大統領(当時)=AFP時事
▽年4万人以上が死亡
医療機関処方の鎮痛薬には幾つかの種類がある。このうちモルヒネに代表されるオピオイド鎮痛薬は、国内でもがんの痛みや慢性的な腰痛などで他の鎮痛薬の効果が不十分な場合に使用が検討される。山口教授は「医療には必須の薬で、正しく使用すれば多くの患者の身体的な痛みを緩和できる」と強調する。
しかし、米国では依存や乱用が問題となっており、2016年以降、オピオイド鎮痛薬が原因で毎年4万人以上が死亡している。「手術後などの急性痛の緩和に処方され、使用されずに余ったオピオイド鎮痛薬が患者の自己判断で頭痛や生理痛に使われたり、他人に渡されたりしている」
自己判断で使用を繰り返すと、使用量に歯止めがかからなくなり、次第に依存するようになる。一方、禁断症状が表れるため簡単には使用をやめられず、大量に摂取すると呼吸が抑制されて命の危険にさらされる。
▽軽減したら減量を
山口教授は「日本では、オピオイド鎮痛薬に対する規制が世界で最も厳しいので、クライシスは起きないだろう」と話す。ただ、一部に不適切な使用があるのも事実だとして、医療者と患者にオピオイド鎮痛薬の適正な使用を呼び掛ける。
対策は、痛みだけでなく、長引く痛みの背景にあるストレスをため込む性格や、職場や家庭内の人間関係などの心理的・社会的問題にも目を向けることだ。「オピオイド鎮痛薬は、患者が抱える『生きづらさ』も緩和してしまうため、そこから不適切使用に陥る可能性がある」と解説する。
「慢性の痛みだから」と漫然と使い続けることが不適切使用の危険性を高めるとも指摘。「痛みが軽くなり生活が改善したら、医師と患者が相談の上、時間をかけて減らして休薬することが望ましいです。生活が悪化するような痛みが再燃し、必要と判断されれば、再開したらいいでしょう」と山口教授は助言する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/09/02 05:00)
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