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青森体操(ねぶた祭の要素を組み込んだ新たな運動プログラム)を通じてサルコペニアの高齢女性の身体機能が改善・向上

 日本は急速な高齢化社会に直面しており、サルコペニア(加齢による筋肉量・筋力低下)や虚弱といった健康問題が高齢者の自立や生活の質に大きな影響を与えています。東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座の安保雅博講座担当教授らは、弘前大学リハビリテーション医学講座、青森大学 脳と健康科学研究センター、などと共同研究を行い、青森県の伝統的ねぶた祭の要素を組み込んだ「青森体操」という運動プログラムが、サルコペニアを持つ高齢女性の身体機能を改善する効果を評価しました。24人の高齢女性が3つのグループに分かれ、3ヶ月間毎日青森体操を行い、開始時、1ヶ月後、3ヶ月後に身体機能を評価しました。
 結果、サルコペニアを持つ参加者は、3ヶ月後にはサルコペニアを持たない参加者と同等の身体機能に近づく顕著な改善を示しました。
 青森体操とは、地元の作曲家の音楽に地元の地理的特徴や名産品などを歌詞に組み入れた本研究グループが創作した運動プログラムです。 青森体操は特に厳しい気候条件の地域において、高齢者の生活の質と自立を向上させる効果的で低コストな介入方法であることが示されました。
 本研究は、青森新都市病院の研究倫理委員会(R04-003)により承認されています。
 本研究の成果は、Cureus誌に2025年3月3日付けで掲載されました。
【研究に至る経緯】
 日本は現在、かつてない速度で高齢化が進んでおり、世界でも最も急速に高齢化が進む社会の一つとなっています。この社会的変化により、医療面や社会経済面でさまざまな課題が生じており、特にサルコペニアといった加齢に伴う健康問題が深刻化しています。サルコペニアは、加齢による筋肉量および筋力の低下を特徴とし、日常生活動作(ADL)における機能的制限を引き起こします。例えば、椅子から立ち上がる、歩く、物を持ち上げるといった基本的な動作が困難になることがあります。このような機能的制限は自立した生活を維持する上で大きな障害となり、日常生活活動の低下を招く要因となり、特に活動制限として顕著に現れます。
 身体活動の増加はサルコペニアの予防に有効であることが示されています。これまでのサルコペニアに対する介入研究の多くは、レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)、タンパク質補給、または複合型運動プログラムなど、臨床環境で実施される方法に焦点を当ててきました。これらの従来のアプローチは一定の効果があるものの、特に厳しい気候条件の影響を受ける地方では、長期的な継続が課題となることが指摘されています。よって、我々は青森体操を制作しました。また、青森体操は、地元の音楽家が作曲した特別な音楽に合わせて行う運動プログラムとし、その歌詞には青森の地理的特徴や名産品が取り入れ、さらに、青森県の伝統的な「ねぶた祭」の要素を組み込むことで、身体活動の促進だけでなく、地域文化への愛着や楽しさを感じながら運動を継続できる工夫をしました。このため、一般的な運動プログラムと比較して、継続率の向上が期待されます。また、従来のレジスタンストレーニングとは異なり、青森体操は特別な器具や指導を必要とせず、自宅で簡単に実施できるため、フィットネス施設やリハビリサービスへのアクセスが限られている地域に特に適しています。本研究の中心的な仮説は、高齢者向けに特化した文化的要素を取り入れた低強度の運動プログラム(青森体操)が、サルコペニアを抱える高齢者の身体機能を大幅に向上させる可能性があるというものです。さらに、青森体操の文化的親和性と実施のしやすさが運動継続率を高め、悪天候の影響を受けやすい地域においても、機能的な改善が得られると考えられます。また、これらの改善は比較的短期間(3か月以内)で観察され、特に研究開始時にサルコペニアと診断された参加者において顕著に現れると予測しました。
【対象・方法】
<対象>
 青森市内の3つの施設で2023年1月から2023年9月までに高齢者を対象に募集しました。参加対象者は、65歳以上で、日常生活動作(ADL)において常時介護を必要としない、自力で運動プログラムを実施できる高齢者とし、運動の実施が困難な筋骨格系疾患を有する人や。重度の認知機能障害を有するは除外し、研究内容を十分に説明され、研究内容を十分に理解した上で自発的な同意書を提出した患者を対象としました。
<方法・評価>
 この前向き観察研究には、24人の高齢女性が参加し、生活環境に基づいて3つのグループに分けられました。
 参加者は毎日青森体操を行い、身体機能はベースライン、1か月後、3か月後に評価されました。評価には、短い身体機能バッテリー(SPPB)、握力、カールアップ、長座位からの前屈、片足立ち、10メートル歩行テストが使用されました。

 Aは、我々が作成した運動プログラムを青森大学新体操部員により忠実に再現した映像を通して参加者に指導した。
 Bは、評価の時期を表にしました。参加者をサルコペニアあり、なし群に分け、ベースライン、1ヶ月後、3ヶ月に決められた評価を行いました。

【結果】

 左の図のように、サルコペニア群と非サルコペニア群の間で、ベースラインと1か月後にSPPBスコアに有意な改善が見られましたが、3か月後にはその差は見られませんでした。サルコペニアの参加者は、3か月の運動後に身体機能が著しく改善し、非サルコペニアのレベルに近づきました。長期介護施設の居住者の方が、地域在住の参加者よりも運動の遵守率が高かった。
【今後の展開】
 青森体操は、サルコペニアの高齢女性の身体機能を大幅に改善する効果的で低コストの介入方法です。このプログラムを地域や介護施設で実施することで、高齢者の生活の質と自立を向上させることができます。青森各地に啓発する予定でいます。
 本研究の成果は、Cureus誌に2025年3月3日付けで公開されました。
 Yoshida K, Hamaguchi T, Masuda K, Eiichi Tsuda, Mikio Hiura ,Masahiro Abo. (March 03, 2025). Empowering Physical Functions in Older Women With Sarcopenia Through Aomori Gymnastics: A Prospective, Observational, Nested Case-Control Study in Aomori Prefecture. Cureus 17(3): e79988. doi:10.7759/cureus.79988
メンバー:
東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座
 講座担当教授 安保雅博
 助教 吉田健太郎
 助教            増田和明
弘前大学リハビリテーション医学講座
 講座担当教授 津田英一
青森新都市病院                        
青森大学 脳と健康科学研究センター                                                    
教授           日浦 幹夫
埼玉県立大学 作業療法学科/大学院研究科
 教授 濱口豊太


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