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生活の質低下、成人アトピー=意識調査が示す患者の不満

 アトピー性皮膚炎は子どもに多いというイメージが強い。しかし、最近の調査によると、約45万6000人の患者のうち19歳以下は36%にとどまり、20歳以上の患者が圧倒的に多く、仕事や日常生活における負担は大きい。アトピー性皮膚炎治療研究会の世話人を務める幸野健・日本医科大千葉北総病院教授が講演し、患者意識調査を基に患者が抱える悩みや医師側の問題点などを解説した。

 ◇第2位の皮膚疾患

 「アトピー性皮膚炎は、良くなったり、悪くなったりを繰り返すしつこい病気。皮膚疾患で2番目に患者数が多い。アトピー性素因といって自分や家族が気管支ぜんそくアレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれかの病気にかかったことがあったり、アレルギー反応に関わる抗体のIgE抗体を作り出しやすい体質だったりする人はアトピー性皮膚炎になりやすい」
 厚生労働省の2014年患者調査によると、皮膚疾患で病院を利用した患者の数はアトピー性皮膚炎が2番目に多い。ちなみに1番は「アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎以外の皮膚炎および湿疹」の52万1000人となっている。
 「アトピー性皮膚炎は他の皮膚疾患よりも生活の質への影響が大きい。例えば、じんましんは、狭心症や心筋梗塞等、心臓カテーテルをしないといけないような患者さんと同じくらい生活の質が落ちるといわれる。そのじんましんよりも、アトピー性皮膚炎はさらに生活の質が落ちる」

 ◇診察時間は約4分

 製薬会社のサノフィが、2016年5月下旬から6月上旬にかけて国内のアトピー性皮膚炎の発症者ら1万300人を対象に実施した調査によると、症状の改善効果について「とても満足」「満足」「やや満足」との回答が、53.8%に上った。一方、医師とのコミュニケーションに関しては、「とても満足」が5.1%、「満足」14.4%、「やや満足」20.2%と、満足度は約40%にとどまっている。
 この結果から幸野教授は「症状には改善があったけれど、患者さんはもっと医師の話を聞きたかったと思っている」と、指摘する。こうした背景には、診察時間が短いことがあるようだ。
 「アトピー性皮膚炎の患者が、自宅を出てから診察を終えて家に戻るまでの所要時間は116.4分なのに対して、診察時間は平均4.2分。31.3%は2分以下。これではカップラーメンもできない」

 ◇日常生活の相談できず

 アトピー性皮膚炎の患者は症状の悩みだけでなく、日常生活や将来への不安も抱えている。患者はそれを医師に伝えることができているのだろうか。
 調査では、「症状がある部位を見て確認してくれる」が81.6%でトップだった。この数字は当然だろう。しかし、「日常生活上のアドバイスをしてくれる」となると32.5%に低下し、「日常生活で困っている事がないか確認してくれる」は16.5%にとどまった。
 幸野教授は「患者さんとの診察時間をもっととらなければいけないのに、実際にはとれていないことの表れではないか」と分析した上で、「日常生活で困っていることを確認してくれる医師が少ない。わずか3、4分の関わりでは、医師も患者さんの日常生活にまでなかなか想像が及ばない」と話す。

 ◇支援ツール、新薬に期待

 調査で浮かび上がったポイントの一つは、かゆみで夜眠れないといった症状だけでなく、仕事や家事、学業に支障が出る恐れや、経済的な面での将来に関する悩みがいずれも90%を超えていることだ。幸野教授は「アトピー性皮膚炎患者は非アトピー性皮膚炎患者に比べて、社会生活において精神面でも身体面でも生活の質が低い」と結論付けた。
 限られた診察時間で、医師とのコミュニケーションを効率的に行うための支援ツールもある。インターネットのサイトで悩みをチェックし、それを印刷して診察に持って行けば役に立つ。日本アレルギー学会のガイドラインによると現在、外用薬として保湿薬、ステロイド、タクロリムス軟膏、内服薬として抗アレルギー薬が治療の中心になっている。
 幸野教授は「この他に、新たな治療の選択肢として生物学的製剤が登場しつつある。すでに乾癬(かんせん)やリウマチの治療に用いられているものもあるが、アトピーの症状改善にも期待できる。これは患者さんの人生、運命を変える可能性がある」と期待を寄せる。(編集委員・鈴木豊)



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