特集

窃盗症治療で再犯防止
高齢受刑者の受け皿、地域で連携

 ◇地域との連携進める

 政府は2012年の犯罪対策閣僚会議で、再犯防止に向けた総合対策として、刑務所出所後2年以内に戻ってくる受刑者の割合を10年間で20%削減する方針を決めた。全国の受刑者数は減少傾向にあるが、2017年版犯罪白書によると、65歳以上の満期出所者の5年以内の再入所率は約7割と高く、06~15年の2年以内の再入所率は23.2%と他の世代を一貫して上回っている。

 高齢受刑者の再犯は、身寄りがなかったり心身に障害を抱えていたりして、出所後の受け皿がないことが主な原因とされる。政府は、刑務所側が高齢の満期出所者のうちから対象者を選んで、地域で支援する特別調整制度を09年度から開始。保護観察所などと連携して病院や老人介護施設を紹介する。

 兵庫県地域生活定着支援センターは、刑務所などを退所する障害者・高齢者で、引受人や帰るべき住まいなどがない人々に対して、自立した生活を送れるよう相談受け付けや自治体との折衝などの業務に取り組んでいる。同センターの森喜久男所長は「出所者本人を更生させるというよりも、関わる人や環境を整えるのが重要。被告、被疑者として入り口段階から出所後の出口段階まで幅広く支援していきたい」と力を込める。

 森所長によると、支援対象者は孤独に生きてきた人が多く、退所後半年間の再犯率が5割以上と高いという。社会復帰の仕方が分からなかったり、本人にはやる気があるがスキルが追いつかなかったりするなど、さまざまなケースがある。再犯を繰り返す受刑者は、虐待などの被害を受けた経験があったり、病的な飲酒などを繰り返していたりする場合も少なくないという。

 ◇刑務所で認知症対策

 刑務所内でも、認知症の予防や病気の早期発見のための対策が進む。神戸刑務所では2017年度から、65歳以上の受刑者10人程度が一組になり、雑誌の写真の切り抜きで貼り絵を作るアート体験を始めた。食べ物や景色、車や芸能人の写真を切り抜き、花火やアイスなど夏をイメージした絵を制作する。さらに健康維持のために定期的に体操する時間も今年度から設け、心身の両面から受刑者の体調管理に力を注いでいる。神戸刑務所の担当者も「受刑者に掛かる経費は年間約300万円にも上る。再犯せず、早期に社会復帰してもらった方が税金が削減できる上、受刑者本人のためにも良い」と問題意識を持つ。(赤井俊文)

  • 1
  • 2

新着トピックス