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普及に拍車かかるか、ロボット支援手術
「ダビンチに保険」拡大、心臓の弁形成術もOKに

 ◇増える僧帽弁閉鎖不全の治療に

従来の開胸・開腹手術よりも体を大きく切り開かなくて済む。出血や合併症が減る。早く退院して社会復帰できる―。一般にダビンチ手術のメリットとして強調されるのは、さまざまな意味で患者の負担が軽くなる手術の「低侵襲化」だ。

医師の立場からは、既存の内視鏡手術と比べて内視鏡の操作性が高い、手術箇所の立体的な視野が得られる、座ったまま手術できるので負担が軽減される、といった利点が挙げられる。一方で、医師の手先に鉗子の感触が伝わらないという「弱点」を指摘する声もある。いずれにせよ、安全性の担保は医師らの技術習熟が大前提となり、緊急時に開胸・開腹手術に移行する態勢を取れることなど、実施できる術者・手術チームや施設の基準も定められている。

心臓外科でダビンチ手術を実施している医療機関は今のところ、ごく一部だ。渡邊総長は、保険適用を受けた今後の普及について「胃がん大腸がんは多くの施設がダビンチ手術の実施に向けて手を挙げており、急拡大する可能性があるのに対し、心臓の弁形成術はスタート時点で実施できる医療機関は限られ、ゆっくり広がっていく」との見方を示す。

渡邊総長らのチームは、これまで450人以上の患者にダビンチ手術を行ってきた。2月時点で集計・公表された446件の手術の内訳をみると、最も多いのが今回、保険が使えるようになる僧帽弁形成術の187件だった。

医学セミナーで講演する渡邊剛ニューハート・ワタナベ国際病院総長=東京・内幸町
 僧帽弁形成術は、左心房と左心室の間にある僧帽弁の閉まりが悪くなり、血液の逆流が起きる「僧帽弁閉鎖不全症」などが対象。進行すると心不全につながる怖い病気で、高齢化の中で患者が増えている。

厚労省医療課によると、ダビンチ手術への保険適用に際し、前立腺がんや腎臓がんは既存技術と比べた「優越性」を認められたのに対し、今回の12件は「既存の技術と同程度」との判断が承認の根拠になった。その背景には「保険が認められないと、ダビンチ手術の高額な費用がネックとなって症例数が増えず、『優越性』についての科学的根拠を確立するのも難しい」という議論もあったという。今後も有効性や安全性の検証を積み重ねていく必要がある。

心臓手術の費用は、術式や入院日数などさまざまな要因によって異なるが、病院によって1件当たり300万円から1000万円までさまざまだという。保険による患者負担の大幅な軽減で、ロボット支援手術の普及にどこまで拍車がかかるかが注目される。

■心臓弁膜症とは■ 心臓には左右の心房、心室という四つの「部屋」があり、心臓に戻ってきた血液は、各部屋を通って一方向に流れ、酸素を取り込んで再び全身へと送り出される。弁膜症は各部屋の間にある弁の異常の総称。手術が必要になるのは大動脈弁や僧帽弁に関する異常が多く、弁を温存して修復する弁形成術や人工弁に置き換える弁置換術が行われる。日本心臓財団によると、推定患者数は200万から300万人に上る。(水口郁雄)

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