特集

大人になっても注射の恐怖
子どもの時に痛み緩和

 ▽痛みの記憶が問題起こす

日本大学医学部付属板橋病院「痛みセンター長」の加藤実診療教授
 この点について、日本大学医学部板橋病院で麻酔科と同時に、慢性の痛みの治療を担う「痛みセンター」の長も務める加藤実診療教授は「治療の際に繰り返される痛みで、痛みを感じやすい体に変化させられ、さらに恐怖の記憶が痛みを感じやすくさせる増強因子になっていることを知ってほしい」と強調する。

 一回一回は一時的な痛みであっても何度も繰り返されることで、その影響が継続することが分かってきたからだ。特に、医療行為の意義について詳しい説明を受けなかったり、説明を理解できなかったりする子どもにとって、痛みの体験は、自然と医療自体について拒否感情を生じさせてしまう。

 この結果、診察室に入り医師の姿を目にした途端に泣きだしてしまうケースは珍しくはない。子どもの頃の嫌な体験が尾を引き、大人になってもワクチンの接種や採血を嫌がったり、診察室に入るとすぐに身構えてしまったり、虫歯の治療をきっかけに歯科医の受診自体を怖がる歯科医治療恐怖症につながったりする場合もある。

 加藤教授はこれらの現象について「過去の『痛みの体験』は、痛みを感じやすくなる身体的な変化に加えて記憶として蓄積され、同じような治療や検査を受ける際に大きな影響を及ぼす」と説明する。「医療の側は、このような新しい事実を意識し、心身両面を守るという視点にたって痛みを少しでも減らすように努力する必要がある」と強調。「がん患者には、痛みを積極的に緩和させる大切さが認識されつつある。しかし検査などの医療行為や診察時の痛みを緩和させようという意識はまだまだ広がっていない」と訴えている。

【用語説明】チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)

 入院や長期間の在宅医療などで継続的に治療を受けている子どもやその家族への支援に携わる医療スタッフ。実際には子供が治療や検査を受ける前の心の準備を手伝ったり、子供や家族の悩みや不安を解消するための相談に応じたりする。米国では専門資格として認められているが、日本国内では法的に認められていない。現在公認されている国に留学して資格を取得した人を中心にした職能団体「チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会」が結成され、現在43人が29の医療機関に勤務している。(喜多壮太郎・鈴木豊)

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