特集

梅毒の患者急増
高リスクは20代女性

 

 ◇統計数字は氷山の一角

 長年、若年層の性行動やそれに伴う問題に取り組んできた日本家族計画協会理事長で同協会クリニックの北村邦夫所長は、女性で20代に患者が集中していることについて「情報機器の発達・普及に伴うSNSの発達もあって、若い女性の一定の層に活発的な性活動、つまり多数の相手と性交渉を持つ傾向が生じているのは確かだろう。結果として、梅毒の患者が増えているのでは」とした上で、「このような状態は梅毒患者が急増する以前からの傾向と考えられる」と指摘する。

 同時に、「国が定期的に発表する性感染症定点報告では、クラミジアや淋病など、感染経路が同じ他のSTDが梅毒と同じように増加していないのはおかしい。臨床の立場では、梅毒の患者だけが急増している、という感じはしない」とも話す。北村所長は、他のSTDと異なる梅毒の「全例報告」という制度が影響しているのではないか、とみている。

 「これまでは梅毒を疑う患者でも、届け出の手間や患者の抵抗などを考えて確定検査をせずに、他に発症しているSTDだけをカルテに記載し、治療薬の中にペニシリンを加えていた医師も少なくない。梅毒だけでなく、STD全体にも言えることだが、統計に出る数は氷山の一角だ」

 ◇症状が多様化

 近年は、典型的な症例と考えられた性器の周辺ではなく、性行為の多様化から口唇や咽頭などを介しての感染が増えるなど、梅毒の発症部位が多様化している。

 このため、症状に改めて注目したり、梅毒を識別する診断が必要と考えたりする医師が、積極的に梅毒の検査を実施するようになった。結果として、「これまで見過ごされてきた患者が顕在化し、それが統計上の患者急増につながったのではないか」と北村所長は言う。

 もう一つ、北村所長が問題点として指摘するのが治療法だ。現在海外では、ペニシリン系抗菌剤の筋肉注射1回が標準的な治療法だ。これに対し日本では、一定期間の内服薬治療が標準とされている。北村所長は「治療途中で通院をやめたり、服薬をやめてしまったりする事例が絶えないのが実情だ」と危惧する。梅毒と診断された患者が完治せずに再発し、再受診を繰り返して延べ患者数を増やしている可能性もある。「梅毒を含めたSTD全体に対する関心を高めることで、患者側の問題意識と積極的に治療を受ける姿勢の向上が、重要な対策になる」としている。(時事通信社 喜多壮太郎・鈴木豊)

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