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人体に安全な可視光を利用した“光殺菌技術”の開発に成功!
紫外線を用いない高効率コロナウイルス殺菌技術の実現へ Nature Research 社『Scientific Reports』令和3年11月16日に掲載

 【研究成果の概要】

 名古屋市立大学大学院医学研究科細菌学分野の立野一郎講師、長谷川忠男教授、および芸術工学研究科の松本貴裕教授らの共同研究グループは、可視パルス光の照射により、効率的に細菌およびウイルスの殺菌が可能であることを世界に先駆けて実証しました。

図 1. 新しく開発した“ ナノ秒波長可変パルスレーザーを用いた 殺菌装置

 コロナウイルスをはじめとして、さまざまな病原性ウイルスや細菌を安全かつ簡便に殺菌するための新しい消毒技術が求められています。特に近年、光を照射するだけで簡単に室内の空気や表面に付着した病原性ウイルスおよび細菌を簡単に殺菌できる“紫外線(UVC[1])による殺菌技術”が注目を集めています。しかし、UVCはヒトの細胞やタンパク質に強く吸収されるため、法律で規制された数値以上のUVCを浴びると、アトピー性皮膚炎皮膚がんになることが広く知られております。

 今回、名古屋市立大学の研究グループは、瞬間的な可視パルス光の照射により、効率的な細菌およびウイルスの殺菌が可能であることを実証しました。本殺菌の原理は、人体細胞より小さな細菌やウイルスは、ナノ秒[2]程度の瞬間的な高輝度可視光のフラッシュで簡単に高温殺菌される光加熱の原理に基づいています。一方、人体細胞は細菌やウイルスよりはるかに大きいので、ほとんど温度上昇を生じないので、UVCと比較して簡便で安全な殺菌手法となります。今回開発した可視光を用いた光パルス殺菌手法は、さまざまな病原性ウイルスや細菌を安全かつ簡便に殺菌することができる、紫外線殺菌に代わる新しい殺菌技術になることが期待されます。

 本研究は、Nature Research 社の『Scientific Reports』に令和3年11月16日に公開されました。

図 2. (左)細菌が有する光吸収スペクトル。ここでは 、 細菌に色素を吸着させてモデル化.(右) 532nmのナノ秒パルス光を照射された細菌が加熱されて 、 瞬間的に殺菌される様子を示す原理図

 【背景】

 コロナウイルスをはじめとして、さまざまな病原性ウイルスや細菌を安全かつ簡便に殺菌するための新しい消毒技術が求められています。特に、光を照射するだけで簡単に室内の空気や表面に付着した病原性ウイルスおよび細菌を殺菌できる“紫外線(UVC[1])による殺菌技術”が注目を集めています。しかし、UVCはヒトの細胞やタンパク質に強く吸収されるため、法律で規制された数値以上のUVCを浴びるとアトピー性皮膚炎皮膚がんになることが広く知られております。一方、可視光は太陽光に代表されるように人体に有害な光ではありませんが、この可視光を単に病原性ウイルスおよび細菌に照射しても殺菌できないことは広く知られております。

図 3. 金の微粒子 (直径 40 nm がパルスレーザー光を吸収して 瞬間的に 1000度以上の高温になり 溶解する様子を観測した電子顕微鏡写真)

 【研究の成果】

 名古屋市立大学の立野一郎講師、長谷川忠男教授、松本貴裕教授、および静岡大学の冨田誠教授らの共同研究グループは、ナノ秒程度の瞬間的な高輝度可視光(ストロボフラッシュ光のようなイメージ)照射により、効率的にウイルスおよび細菌の殺菌が可能であることを発見しました。本殺菌技術の可能性を実証した装置が図1に示す「ナノ秒波長可変パルスレーザー殺菌装置」です。本研究において、この可視光パルス殺菌装置を世界に先駆けて独自開発をおこないました。細菌やウイルスは、可視光領域にも効率的に光を吸収する波長領域があります。特に、有色細菌である緑膿菌および黄色ブドウ球菌ではこの特徴は顕著となります。図2に示すように、この効率的に光を吸収する波長領域に合うようなスペクトル成分の光を波長可変パルスレーザーで発生させ、瞬間的(ナノ秒時間程度)に高輝度で細菌やウイルスに照射すると、人体細胞などの大きな細胞はほとんど温度上昇しない一方で、これより小さな細菌およびウイルスは、簡単に300℃以上の高温になり、殺菌することができることになります。この方法は、レーザー物理学の先端的な研究分野で盛んに用いられている共鳴励起[3]という手法を、病原性ウイルスや細菌の殺菌手法に取り込んだ、最先端の研究成果となります。

 実際に金の微粒子を細菌およびウイルスと見立てて、ナノ秒波長可変パルスレーザー殺菌装置で金の微粒子の温度上昇を図ったところ、図3に示すように、溶液の温度は2度程度しか上昇しない一方で、金の微粒子は、パルスレーザー光を吸収して、瞬間的に1000度以上の高温になり金の微粒子が溶けてしまうことが判明しました。

 図4は、今回開発した可視パルス光の照射技術により、効率的に大腸菌が殺菌できることを実証した結果です。

 今後は、この可視パルス光殺菌技術により、大腸菌だけでなくさまざまな病原性細菌およびウイルスが安全に殺菌できることを目指して研究開発を進めてまいります。

図 4. 今回開発した可視パルス光の照 射技術により 、 効率的に大腸菌が殺菌できることを実証した結果

 【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

 室内にまん延しているさまざまな病原性ウイルスや細菌を、人体に安全かつ簡便に殺菌することができる、人体に危険な紫外線を用いない“新しい光消毒技術”となることが期待されます。また、高輝度可視光のパルスフラッシュ光は、現在の半導体発光素子(LED)作成技術で容易に構築することができます。今後は,LED照明に“パルスフラッシュ殺菌光”を搭載したハイブリッド型照明器具への展開が予想されます。特に病院などでは、このような殺菌機能を搭載した照明器具の普及が進むものと見込まれます。また、一般家庭においては,今後予想されるコロナウイルス以外のさまざまな感染症においても、人体に安全な形で、にストレスを与えることなく防止することが可能な、殺菌機能を搭載した照明器具を提供することが可能になるものと思われます。

 【用語解説】

 1. UVC: 波長が200~280 nmである光。生体内のDNAおよびたんぱく質を破壊することが可能で、強い殺菌効果を有する。

 2. ナノ秒: 10-9 秒で10億分の1秒。(この短時間では光は30 cmしか進まない。ちなみに1秒で光は30万km進む。)

 3. 共鳴励起: 図2に示すように、物質(ここでは細菌またはウイルス)に存在する吸収線または吸収帯に合わせた光を照射して、効率的に物質を励起(ここでは光加熱)する手法。

 図1. 新しく開発した“ナノ秒波長可変パルスレーザーを用いた殺菌装置”.

 図2. (左)細菌が有する光吸収スペクトル。ここでは、細菌に色素を吸着させてモデル化.(右)532nmのナノ秒パルス光を照射された細菌が加熱されて、瞬間的に殺菌される様子を示す原理図。

 図3. 金の微粒子(直径40 nm)がパルスレーザー光を吸収して瞬間的に1000度以上の高温になり溶解する様子を観測した電子顕微鏡写真.(左)レーザー照射前は直径40 nmの微粒子のみが観測される。(右)レーザー照射後は、金の微粒子が溶けてより小さな微粒子、または溶解した金が固まって大きな結晶を作る様子が観測される。

 図4. 今回開発した可視パルス光の照射技術により、効率的に大腸菌が殺菌できることを実証した結果.(左)光照射前の大腸菌が作るコロニー数.(中央)光照射後の大腸菌が作るコロニー数.(右)大腸菌の数を99.99%低減していることを示す棒グラフ.

 【研究助成】

 本研究の一部は、名古屋大学低温プラズマ研究センター(cLPS)の研究助成により行われました。

 【論文タイトル】

 “Mechanism of transient photothermal inactivation of bacteria using a wavelength-tunable nanosecond pulsed laser”

 【著者】

 立野一郎 (名古屋市立大学医学研究科、筆頭著者)
 新美友菜  (名古屋市立大学医学研究科、現京セラドキュメントソリューションズ株式会社)
 冨田誠  (静岡大学理学研究科)
 寺島宏  (名古屋市立大学 病院検査部)
 松本貴裕 (名古屋市立大学 芸術工学研究科)

 【掲載学術誌】

 学術誌名: Scientific reports (サイエンティフィック レポーツ)
 DOI番号(10.1038/s41598-021-01543-5):www.nature.com/articles/s41598-021-01543-5

 【研究に関する問い合わせ】

 (I) 名古屋市立大学 大学院芸術工学研究科 教授 松本貴裕
 住所: 名古屋市千種区北千種2-1-10
 E-mail:matsumoto@sda.nagoya-cu.ac.jp

 (II) 名古屋市立大学医学研究科 講師 立野一郎
 住所:名古屋市瑞穂区川澄1
 E-mail:tatsuno@med.nagoya-cu.ac.jp

 【報道に関する問い合わせ】
 名古屋市立大学 医学・病院管理部経営課
 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
 E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp

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