治療・予防

さまざまな不調の原因に
~高齢者の亜鉛欠乏(帝京平成大学大学院健康科学研究科 児玉浩子特任教授)~

 体に必要不可欠な亜鉛は体内で合成したり蓄えたりすることができず、食事で摂取する必要があるが、近年、特に高齢者で亜鉛不足の人が目立つ。帝京平成大学大学院(東京都豊島区)健康科学研究科の児玉浩子特任教授は「さまざまな不調の原因に、亜鉛不足が潜んでいるかもしれません」と警鐘を鳴らす。

食べやすいよう調理を工夫して

 ▽味覚異常や貧血

 亜鉛は体内の代謝に関与しており、体の調子を整える300種類以上の酵素も亜鉛がないと働かない。例えば、タンパク質やインスリンの合成、アルコールの分解、免疫の発動や赤血球を作る際にも亜鉛が使われる。児玉医師は「1日の必要量は、成人男性の場合、75歳未満は約11ミリグラム、75歳以上は約10ミリグラム、女性は約8ミリグラムと微量です」と説明する。

 ところが、現在の高齢者の4人に1人が、血液中の亜鉛が低値だという。亜鉛不足で酵素の働きが悪くなると、全身に症状が表れる。皮膚炎や口内炎のほか、脱毛症や味覚異常、貧血など多岐にわたる。

 「高齢者の床ずれがなかなか治らなかったり、頻繁に皮膚炎を起こしたりするケースでは、原因に亜鉛欠乏症があるかもしれません。味覚異常も、高齢だからと見過ごされているケースが少なくありません」

 ▽服薬や病気も原因に

 高齢者の亜鉛欠乏症の原因は、〔1〕食事〔2〕薬〔3〕病気の合併症―の三つがある。高齢になると消化吸収が悪くなる上、食が細くなり、亜鉛を多く含む肉類を避けがちになる。服用薬も多く、糖尿病関節リウマチ、うつ病やてんかん、痛風などの薬には、亜鉛を体外に排出する作用を持つ薬が多い。

 加工食品に含まれる食品添加物にも同様の作用がある。さらに「肝疾患や炎症性の腸疾患、糖尿病腎疾患などの病気があると、亜鉛が欠乏しやすく、欠乏すると回復が遅くなります」と児玉医師。

 亜鉛欠乏症は血液検査で診断される。1デシリットル当たり60マイクログラム未満を亜鉛欠乏症、60~80マイクログラム未満を潜在性亜鉛欠乏と呼ぶ。治療は、ノベルジンという亜鉛製剤を半年ほど服用する。亜鉛を補うことで、不調が少しずつ改善されていくという。

 予防には、普段の食事に目を向けたい。児玉医師は「肉類やカキ、大豆類を積極的に摂取してください。亜鉛は火を通しても壊れないので、食べやすいよう調理を工夫するといいでしょう」とアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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