亜鉛不足で起こる皮膚炎
治療の基本は食事療法(群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学 茂木精一郎教授)
ミネラルの一種で、人体にとって必須の栄養素である亜鉛。体内にある300種類以上の酵素の働きを助け、新陳代謝やタンパク質の合成に関わっている。特に皮膚に多く存在するため、不足すると皮膚炎(湿疹)を起こしやすく、寝たきりの高齢者では床ずれ(褥瘡=じょくそう)の原因にもなる。亜鉛欠乏が皮膚に及ぼす影響について、群馬大学大学院(前橋市)医学系研究科皮膚科学の茂木精一郎教授に聞いた。
亜鉛不足で見られる皮膚症状と特徴
▽新陳代謝盛んな臓器に多い
亜鉛は成人では体内に約2グラム含まれ、骨、筋肉、肝臓、腎臓など全身の臓器や血液、皮膚に多く存在する。特に細胞の新陳代謝が盛んな組織・臓器に必要で、そのうちの一つが皮膚だ。亜鉛が不足するとさまざまな皮膚のトラブルが起こりやすくなる。
近年、亜鉛不足が皮膚炎を引き起こすメカニズムの一端が明らかになった。細胞内のアデノシン三リン酸(ATP)という分子は筋肉の収縮やエネルギーの貯蔵・利用に関わるが、何らかの理由で細胞が壊れてATPが細胞外に放出されると周囲の細胞に悪影響を及ぼすという。
「通常、細胞外に出たATPは酵素によって分解されます。しかし、亜鉛が不足すると分解酵素が働かなくなり、周囲の細胞が炎症を生じて皮膚炎を起こすのです」と茂木教授は解説する。
▽刺激受けやすい場所に炎症
妊娠中は胎児の成長期に亜鉛の消費量が増加するため、妊娠後期は亜鉛不足になりやすい。また、高齢者では、栄養素を吸収しにくくなり、また糖尿病や腎障害などの合併症によって尿中への亜鉛の排出が多くなるため、寝床とこすれて皮膚の細胞が壊れ、褥瘡ができやすくなるという。
皮膚炎は、目や鼻、口の周り、肘や膝、指先、肛門の周りなど、皮膚がこすれ、体液や便尿などによって刺激を受けやすい場所に生じやすい。「他の皮膚炎と見分けるのは難しいのですが、亜鉛不足であれば味覚障害を伴うこともあり判別に役立ちます」と茂木教授。
亜鉛の欠乏による皮膚炎は薬を塗っても治りにくく、改善には補充することが不可欠だ。「亜鉛不足は食事からの摂取が少ないことが原因の一つです。食事療法が治療の基本ですが、腸や肝臓の病気で吸収が妨げられている可能性があります。その場合、飲み薬で補充します」。ただし、過剰摂取すると鉄や銅の不足を引き起こすため、「血液検査などで他のミネラルとのバランスを見ながら処方することが重要です」と茂木教授はアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/07/11 05:00)
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