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新型コロナウイルス感染症に対し、ワクチンの接種と治療薬による「防戦」が続く。見落とされているのが、急性症状が収まってからも嗅覚や味覚の異常、脱毛を含む皮膚障害などの後遺障害に悩まされる患者がいる点だ。中でも嗅覚障害は長く続く傾向があるとされている。新型コロナ感染症自体は軽症で済んだとしても、安心はできない。
新型コロナウイルス感染症の後遺障害の診療に当たる坂田英明院長=同院長提供
◇後遺症患者の61%、嗅覚や味覚に障害
「新型コロナの後遺症で私のクリニックを受診した患者は約60人。多くが2021年8月から22年1月に症状が出て受診しています。その半分くらいが20代以下の人たちです」
埼玉県川越市の耳鼻科クリニックで後遺障害患者を受け入れてきた坂田英明院長はこう話す。患者の症状は嗅覚や味覚障害から、めまいや耳鳴り、倦怠(けんたい)感などさまざまだが、坂田院長が埼玉県の要請を受けて力を入れて取り組んでいるのが嗅覚障害だ。
「後遺症患者の61%が嗅覚や味覚の障害を抱えていると言われている。嗅覚そのものを失ったり、常に悪臭を感じていたりすることも一定の比率で起きています。10~20代の患者がそのままの状態で生きていくことはつらく、抑うつ状態に陥ることもあります」と坂田院長は言う。
嗅覚異常に限れば、治療は可能だ。「異常の原因は、嗅覚をつかさどる臭子体が炎症で破壊されたことが多いのです。治療としては炎症を抑えるステロイド点鼻薬を中心に、体調を整える漢方薬や亜鉛製剤なども処方します」
嗅覚を回復させるためのトレーニング=坂田院長提供
◇嗅覚訓練に注力
さらに、クリニックが力を入れている治療が「嗅覚訓練」だ。強い香りに触れさせて嗅覚を刺激する治療を定期的に反復することで、嗅覚を回復させる。パイナップルやバニラエッセンスを使うことが多い。「独特の香りの強さで知られるクサヤのエッセンスを1日に2回嗅ぐことで、少しずつ嗅覚を取り戻してもらおうと取り組んでいます」。ただ、後遺障害が出てから治療を開始するまでの期間の長短が結果に大きく影響してしまうことも分かってきた。
坂田院長は「これまでの経験から、これらの治療が一定の効果を上げているのは確かです」とした上で、「早くから治療を始めた方が効果は大きい。ほぼ症状が消えた『改善』(寛解)した患者が2.1%、ある程度感覚が回復した『部分改善』が45.8%で、その多くは比較的早期に受診して治療を続けた事例です」と話す。
◇ガイドラインを作製
問題もある。こうした治療を受けられる医療機関を探し出すことはかなり難しい。埼玉県で新型コロナによる嗅覚・味覚障害の患者を受け入れているのは、埼玉医科大学病院耳鼻咽喉科と坂田院長のクリニックが中心だ。埼玉県は県医師会などと協力して症状別の後遺障害の治療ガイドラインを作製し、症状に応じて必要な治療が受けられる医療機関に誘導していく体制の整備を進めようとしている。(了)
(2022/04/01 05:00)
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