教えて!けいゆう先生

痛み止めは飲まない方がいい? 
よく耳にする薬への「誤解」 外科医・山本 健人

 医師として日頃、診療していると、「痛み止めはなるべく飲まない方がいい」と考える患者さんが多いことに気づきます。

 中には、「痛み止めは痛みの根本原因を解決する薬ではないから飲む意味がない」と感じる人もいます。

「痛み止めはなるべく飲まない方がいい」と考えるのは誤解です【時事通信社】

 「臭いものにフタをしているだけだ」というわけです。

 また、高齢の患者さんの中には、「なるべく薬に頼らず、頑張って痛みを我慢すべきだ」という考えの持ち主もいます。耐えることを美徳と考える習慣があるのかもしれません。

 確かに、薬を飲む必要が本当にないなら、それに越したことはないでしょう。

 しかし、痛みを軽くできる薬は、それがたとえ痛みの原因に直接アプローチするものでなくとも、日々の生活にとって非常に大切です。

 「痛み」という不快な感覚が軽減することで、確実に生活の質(QOL)は上がるからです。

 ◆対症療法が持つ重要な意味

 症状を抑えることが主目的の薬を「対症療法」と呼びます。

 「症状」に「対する」治療法のことです。

 対症療法の目的は、病気によって生じる不快でつらい症状を軽くすることです。

 病気からくる症状によって、読書や音楽鑑賞、運動や料理など、自分が大切にしている行為ができない日があるかもしれません。もし痛み止めのおかげで、こうした行為が可能になるなら、それは対症療法の素晴らしい「効果」と言えます。

 近年、がんや生活習慣病など、長期間にわたって「付き合っていく」タイプの慢性疾患が増えています。

 これらは、どこかで病気から完全に解放され、「治った」と言える状態に至ることが難しいことがあります。

 こうした病気の患者さんは、病気を治療しながら、同時にいかにQOLを維持し、いかにこれまで通り人生を楽しむかを考える必要があります。

 こういう場合は特に、対症療法をうまく利用することが大切です。

 ◆長期使用は専門家に相談を

 そもそも、私たちが薬を飲む理由とは何でしょうか。

 突き詰めて考えれば、それは医学の力を利用して、人生の幸福度を高めることだと言えます。

 この目標に近づくのであれば、症状を抑える薬は決して「臭いものにフタをする薬」ではありません。

 もちろん、対症療法として飲む薬にも、副作用はあります。

 例えば、痛み止めとしてよく使われるロキソニンやボルタレンといった「非ステロイド性抗炎症薬」は、漫然と飲み続けると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、腎障害などの副作用を起こすことがあります。

 対症療法の薬も、根治を目的に使用する薬も、適切な使い方が求められます。長期間使用する場合は、専門家に相談が必要です。

 薬だけでなく専門家も、うまく利用することが大切なのです。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。

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