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「ダビンチ」というロボットが支援する手術が広がっている。ダビンチ手術は内視鏡手術の一種で、従来の内視鏡手術よりも緻密で難しい手術に対応でき、開腹・開胸手術に比べて患者の痛みや体への負担が少ない。ダビンチが開発された米国では、がんの取り残しが少ないことや手術後の尿失禁が少ないことなどの理由から、前立腺がんの手術ではダビンチが主流になっている。日本では、前立腺がんや腎細胞がん、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓(すいぞう)がん、縦隔腫瘍などに保険が適用されている。累計のロボット手術が約1600症例という国内有数の実績を持つ済生会横浜市東部病院の専門医2人に、この手術のメリットや今後の展望などについて聞いた。
サージョンコンソールでダビンチを操作する医師(済生会横浜市東部病院)
◇呼吸器外科で150例到達
同病院は2012年に横浜市で初めてダビンチを導入。現在、最新型の「ダビンチXi」を使用する。呼吸器外科では20年よりロボット支援手術を開始し、23年に合計150例に到達した。また消化器外科では、従来は困難が伴った膵臓切除(膵頭十二指腸切除・膵体尾部切除)に続き、肝臓の部分切除も開始した。多関節機能を持つダビンチ手術の有効性が背景にある、と病院関係者は言う。
ダビンチは、操作部(サージョンコンソール)、ロボット部(ペイシェントカート)、モニター部(ビジョンカート)の三つのパートで構成されている。ロボット部は、人間の手首のような間接がある4本のアームが自在に動く。サージョンコンソールはいわば「司令塔」であり、医師が座ったままで映し出される3D画像を見ながらアームを操り、電気メスや鉗子(かんし)、内視鏡で手術を行う。
同病院でのダビンチ手術は、ロボットを操作する医師(術者)と助手の2人で実施する。井上芳正・呼吸器外科部長は「術者の持つイメージ通りの手術が容易に実現できるようになる上に、術後の回復が早い。医師や看護師をはじめ、医療従事者の負担が軽減するというメリットがある」と話す。
西山亮・消化器外科医長
◇良好な視野、画像も鮮明
アームの1本は3Dカメラを動かす。西山亮・消化器外科医長は「手術する部分を最も良い視野で、鮮明な画像で見ることができる。3Dの『没入感』がすごい」と評価する。
従来は助手がカメラを担当した。「ここを見せて」「もう少し左へ」。担当医師がこんな指示を出すことがしばしばあった。それも変わった。西山医長は「従来の腹腔(ふくくう)鏡手術では、術野の展開は助手が担う部分が多かったが、ロボット手術では術者が行う部分が多くなり、より術者の思う通りの手術がしやすくなったところがある」と言う。
◇早期の退院・社会復帰
ダビンチ手術が普及したのは、患者のメリットも大きいことだ。体への負担が少ないために、早く退院・帰宅し、早期に社会復帰できる。同病院における手術から退院までの平均日数を見ると、前立腺がんで5~6日、子宮体がんで4~5日、肺がんで2~3日などとなっている。
従来、胸部の手術では、鎮痛のために麻薬を使用する必要があった。ロボット支援手術では術後の痛みが少ないため、麻薬の必要がなくなった。井上部長は「麻薬を使用すると、手術後に、歩けたり、食べられたりするようになるまで時間がかかった。今は、手術当日の夕方までに歩いてトイレに行ったり、食事ができたりするようになった」と強調する。
井上芳正・呼吸器外科部長(左)
◇手術の時間を短縮
肝臓には細い血管が入り込んでいる。「ダビンチによって、誤って血管を傷つけ出血を招くリスクを防ぐことができる」と西山医長。肝臓がんの手術も順調にいけば、手術から5日目に退院できる。
手術にかかる時間の短縮も患者と医師の双方にメリットがある。井上部長は「ダビンチの操作に慣れると、従来の胸腔鏡や開胸手術より短い時間で手術を終えることができる。患者にとっても良いことだし、医師の側も疲労度が減少する」とした上で、「私が担当する手術では、手術時間は平均で2時間を切る」と説明する。
ロボット支援手術に使われるダビンチ(済生会横浜市東部病院)
◇リスクを管理
デメリットはないのだろうか。例えば、手術では出血時の対応が懸念される。この点について井上部長は「3Dの拡大視野や多関節鉗子・手振れ防止機能により、従来と比較にならない精緻で正確な操作ができる。操作に習熟していれば、出血のリスクは少ないと感じている」とした上で、「定期的に折り紙やシミュレーターなどの実技訓練、出血時の緊急対応訓練を行い、リスク管理をしている」と話す。
◇触覚機能が欲しい
ダビンチは手振れ防止機能を備えており、医師に安心感をもたらす。モニター部の画像は、他のスタッフとの情報共有を可能にするとともに手術技術の指導にも役立つ。
今後、保険適用される手術の種類が増えるにつれ、ダビンチ手術の普及はさらに進むと予想される。医師側が追加を期待する機能に関して、西山医長は「将来的には触覚の機能が欲しい。実現すれば、ダビンチはさらに普及するだろう」と語った。(鈴木豊)
(2023/04/03 05:00)
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