治療・予防

背景に命に関わる病気も
~「複視」は必ず受診を(北里大学北里研究所病院 飯ケ谷美峰部長)~

 物が二重に見える「複視」は、両眼の視線が一致しないために表れる症状だ。目に病気があると思いがちだが、他の部位に病気が隠れているケースがあり注意が必要だ。北里大学北里研究所病院(東京都港区)脳神経内科の飯ケ谷美峰部長は「複視を放置するのは危険です。自己判断せず、必ず受診してください」と呼び掛ける。

複視の主な原因

 ◇片眼か両眼かで原因違う

 ひと口に複視といっても、両眼で見ると二重に見える「両眼複視」と、片眼で見ると二重に見える「単眼複視」で原因が異なる。「単眼複視は、近視乱視、白内障など、眼球そのものに原因がある場合が多く、両眼複視は、眼球以外の脳や神経の病気が考えられます」

 眼球を動かす神経には「外転神経」「動眼神経」「滑車神経」の三つがあり、外傷や病気で障害されると両眼複視が表れる。

 外転神経は眼球を外側(耳側)に動かすための神経で、例えば左の外転神経が障害を受けると、左を向いたときだけ複視が表れる。動眼神経は多くの眼球運動に加え、まぶたを上げる、眼に入る光を調節するといった働きがある。障害が起こると、複視に加えて眼球を上下や内側に動かしにくい、まぶたが下がる、まぶしいなどの症状が出る。

 滑車神経は、眼球の下方内側(鼻先)を見るときに働く神経だ。傷ついて複視が表れると、見えにくいため階段を降りるのが怖かったり、正面下の物が拾いづらかったりする。

 ◇脳の病気も

 三つの神経に障害を起こす原因で最も注意が必要なのは、脳の動脈が膨らむ脳動脈瘤(りゅう)や、脳の中心部にある脳幹の血管が詰まる脳梗塞だ。「脳動脈瘤が近くを走行する動眼神経を圧迫すると、複視が出ます。動眼神経を圧迫するような脳動脈瘤は小さくないことが多く、破裂すると命に関わります」

 他にも、脳の神経から筋肉に信号が伝わらなくなる重症筋無力症や、脳と脊髄に問題が起こる多発性硬化症など、両眼複視の原因は多岐にわたる。さらに、糖尿病高血圧による動脈硬化で眼球運動神経に血流障害が生じ、複視が出る例も。「単眼複視は眼科を、両眼複視は早期に脳神経内科を受診してください」

 脳神経内科では、全身の神経に関する診察とともに、MRIなどの頭部画像検査を行う。受診前に「複視が両眼か片眼か」「いつから複視が出たか」「どのような状況で複視が表れるか」を確認しておくとスムーズな診断につながる。

 さらに飯ケ谷部長は「原因が分かり回復を待つ間は、両眼で見ることがリハビリになるので、自宅など安全な場所ではできるだけ眼帯は避けてほしい」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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