話題 2024/12/19 05:00
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~トラブル増で専門家警鐘~
山や森だけでなく、民家の裏山や畑、あぜ道などにも生息するマダニ。これからの季節、きのこ採りや紅葉狩りなどで出掛ける人も多いだろう。ウイルスや細菌など病原体を持つマダニにかまれると、さまざまな感染症にかかる恐れがあり、野外活動の際には対策が必要だ。そんな中、ダニ媒介性脳炎の国内初ワクチンが登場。マダニ対策として期待が掛かる。
ダニ媒介性脳炎の原因となる病原体を媒介するヤマトマダニ(国立感染症研究所ホームページより)
◇重症化すると致死率高い
ダニ媒介性感染症の一つ「ダニ媒介性脳炎(TBE)」。欧州からアジアまで広く分布しており、TBEウイルスを持つマダニにかまれ、吸血されている間に病原体が移り、感染する。野生のネズミやシカ、イノシシ、アライグマなどをかむことが多い。
マダニは体長2~3ミリと、一般的なダニと比べて大きく、長時間(10日間以上の場合もある)の吸血で大きくなると、ほくろと見間違うことも。
日本でTBEウイルスは「極東亜型ウイルス」が北海道に分布しているとみられ、感染しても70~98%は症状が出ないことが一般的。一部の人に頭痛、発熱、悪心、嘔吐(おうと)などの症状が現れ、重症化すると精神錯乱、昏睡(こんすい)、けいれん、まひなどの脳炎症状にまで発展する。発症者全員が重症化するわけではないが、致死率は20%以上とされ、生存者の30~40%に後遺症が残るなど、重篤な疾患とされている。
2016年に北海道で国内2例目の患者が発生し、亡くなったことから、道内では一部の医療機関で輸入ワクチンの接種が行われていた。18年発生の5例目以降は患者が出ていなかったが、24年夏、6、7例目が相次いで発生。いずれも山菜採りでマダニにかまれたようだ。
児玉文宏医師
◇全国に分布の可能性も
これまでは道内だけで見つかっているが、本当に全国に広まっていないのか。
原因不明の中枢神経系疾患の患者血液を調査した結果、東京、岡山、大分の1都2県で同ウイルスの抗体陽性者が見つかった。また、栃木、富山、島根、長崎の4県で抗体を持つ動物が確認された。
新潟市民病院総合診療内科副部長の児玉文宏医師は「TBEウイルスが全国に広く分布している可能性がある」と警鐘を鳴らす。
◇肌の露出なくして
感染を防ぐには、山林などの屋外で活動する時にマダニを体に付けないよう工夫する必要がある。
腕、足、首など肌の露出を少なくする。例えば、首はタオルを巻いたり、ハイネックのシャツを着用したりする。シャツの袖口は軍手や手袋の中に、裾はズボンの中に入れる。
ズボンの裾も靴下をかぶせるか、長靴の中に入れる。服の色味は、明るい色を選ぶとマダニが万が一付いても確認しやすい。仕上げは防虫剤をしっかり付ける。
野外から戻ったら、上着などは家の中に持ち込まないようにする。粘着テープを使って服の上からゴミを取り除くと、マダニも一緒に除去できる。できるだけ早めにシャワーを浴びて、マダニが付着していないかチェックしてほしい。
米川元晴院長
もしマダニに吸血されていたら、無理に取らない方がいい。医療法人「おひげせんせいのこどもクリニック」(札幌市)米川元晴院長は「マダニの口器が皮膚の内部に残り、化膿(かのう)したり、病原体が飛散したりすることがある。皮膚科などで早めに処置を受けましょう。その後数週間程度、体調の変化に注意して、発熱などの症状が出た場合は医療機関を受診してほしい」と注意を促す。
◇ワクチンで予防
ダニ媒介性脳炎には、以前から旅行者用の不活化ワクチンがあり、渡航者外来などでは輸入して接種が行われていた。海外では1歳で1回目を接種後、定期的に追加接種する国もあるほど一般的な存在だ。
今年3月、国内でもファイザー製のワクチン「タイコバック」が承認され、製造・販売されている。初回に3回接種、3年後に追加接種が推奨されている。米川院長は「不活化ワクチンは時間がたつと効果が薄まる。リスクがある人、感染リスクが高い地域に住む人や移動する人は、継続して打ってほしい」と話す。例えば林業を営む人など、職業上マダニに接する可能性が高い人は、予防の選択肢の一つになりそうだ。
もしかまれて発症しても、検査、診断が難しいのもTBEの問題点だ。「発症し意識がすでに混濁していると、マダニにかまれたことがあったかどうかを聞くこともできなくなる」(児玉医師)。さらに、初期症状が特徴的とは言えず、他の疾患と区別するのが困難で、検査のタイミングを失う可能性が高いことや、病原体の診断が特定の施設でないと行えない。児玉医師は「特効薬などが無く、治療は対症療法しか手だてがない。マダニにかまれるリスクが高い人は、予防の意識を高く持ってほしい」と強調する。(柴崎裕加)
(2024/10/31 05:00)
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