脳炎〔のうえん〕 家庭の医学

 脳炎は脳の実質に炎症を起こす感染症です。原因のほとんどはウイルスによります。原因ウイルスとしては次のようなものがあります。単純ヘルペス脳炎ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、日本脳炎ウイルス、流行性耳下腺(じかせん)炎ウイルス、風疹ウイルスなどです。
 なお、ウエストナイル脳炎と日本脳炎を除く急性脳炎は、感染症法で五類感染症に指定されています。

[症状]
 2、3日ないし1~2週間の経過で発熱、頭痛、意識障害に加えてけいれん発作や異常行動、失語症など大脳の症状が出現します。

[診断]
 発熱、意識障害、けいれんがみられれば、まず脳炎を疑って検査を進めます。脊髄液の検査をすると、細胞数、たんぱくが増加しています。髄液中のウイルスに対する抗体を調べ、原因をあきらかにすることが可能です。
 脳波は意識障害に応じて徐波(おそい脳波)が目立つようになり、同時にてんかん性の変化(棘波〈きょくは〉というとがった脳波)があらわれます。CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像法)では炎症が強い部位に異常をみとめます。SPECT(脳血流シンチグラフィ)では、炎症のある部位の血流が目立って増加しています。この変化は、脳炎が進行して障害が進むにつれ、逆に血流の低下を生じるようになります。

[治療]
 単純ヘルペス脳炎ではバラシクロビル、アシクロビルあるいはビダラビンの内服や点滴が有効です。これらの薬剤の開発前は3分の1が死亡し、3分の1がてんかんや知能低下などの重篤な後遺症を残していました。インフルエンザウイルスに対してはバロキサビルやペラミビルが使われ、効果を上げています。
 いっぽうで日本脳炎、流行性耳下腺炎風疹などのRNAウイルスに効果のある薬剤はなく、いまだに死亡例や後遺症例が多くみられます。これらのウイルスに対してはガンマグロブリンの大量投与がおこなわれます。

(執筆・監修:一口坂クリニック 作田 学)