教えて!けいゆう先生

入院中に差し入れしてもいい? 
お見舞いの時に注意すべきこと 外科医・山本健人

  コロナ禍の影響で長らく制限されていた病院での面会が緩和され、入院中の家族や友人のお見舞いに行く人が増えています。

 中には、「病院食が続いているので、きっとおいしいものが食べたいはず」と思い、食事やお菓子を差し入れたくなる人がいるかもしれません。

 しかし、差し入れには注意したい点もあります。

 善意のつもりで差し入れをしたら、かえって患者さんに迷惑をかけてしまった、という事態がしばしば起こるのです。

相手の症状に合わせ、差し入れる物を考える

相手の症状に合わせ、差し入れる物を考える

 ◇差し入れの注意点

 病院食にはたくさんの種類があり、患者さんの病状に応じて細かく使い分けられています。

 病状によっては、カロリーや栄養バランスが医学的に厳しく制限されることもありますし、日ごとに提供する病院食の種類が変わることもあります。「食べること」も治療の一環だからです。

 ですから、患者さんが病院食とは別に差し入れを食べてしまうと、当初の治療計画が乱れ、病状に悪影響が生じてしまうことがあるのです。

 中には、「絶食」(何も食べてはいけない)あるいは「絶飲食」(何も飲み食いしてはいけない)が必要な状態であるにもかかわらず、誤って差し入れを食べてしまい、病状が悪化する事例すらあります。

 もちろん病状によっては、食べ物の制限が特にない場合もあります。そういう場合は、差し入れてもらったお菓子を食べて、精神的に元気になれることもあるでしょう。

 胃や大腸など消化器の手術を受けた人は、手術後に一定期間、絶食が必要になるのが一般的ですが、「消化」に関わらない臓器の手術ならその限りではありません。

 食べ物、飲み物を差し入れようと思った時は、許容される病状かどうかを事前に確認しておくのがよいでしょう。

 ◇差し入れる物の選択も大切

 たとえ病状が許したとしても、差し入れる物の選択には少し注意が必要です。

 例えば、冷蔵が必要なケーキなどのお菓子を差し入れると、患者さんは冷蔵庫に保管しておかなければなりません。

 病院の冷蔵庫は、有料であることが一般的です。プリペイドカードを購入して使用する必要があり、患者さんに費用がかかってしまいます。

 冷蔵が必要な物を届けるなら、その場で食べ切れる量にする、あるいは、冷蔵保存が必要でない物を選ぶ、といった配慮が必要でしょう。

 入院中につらい思いをしている患者さんのために何かしてあげたい、と思うのは当然です。一方で、患者さんによっては、差し入れがかえって負担になってしまうこともあります。差し入れがなくても、ゆっくり話を聞くだけで患者さんは心が救われるかもしれません。

 せっかくの善意がかえって悪い方向に働かないよう、気を付けたいものです。(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万PV超を記録。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)はシリーズ累計23万部。「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「患者の心得」(時事通信)ほか著書多数。

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