「医」の最前線 AIに活路、横須賀共済病院の「今」

〔第5回〕リーダーの在り方
職員が自立して働く組織へ

 ◇「聞く」が80%

 コーチングを学んで、特に役に立ったことが三つあるという。まずは聞き方。部下とのコミュニケーションでは、相手の話を「聞く」が80%、「話す」が20%の割合にすることが求められる。「これは、やってなかったなと思った。何か言われると、すぐに『そうじゃないだろう』ってぴしゃりとつぶしていたので。そうすると、相手は萎縮して何も言わなくなっちゃう」と長堀氏は振り返る。

 たとえば、部下にやる気がないように見えたときは、「お前、やる気あんのか」と迫るのではなく、「ちょっとモチベーションが下がっているように見えるけど、原因は何だろう」と問いかけ、自分で考えることを促すのがコーチングの基本だという。

四つのタイプ

四つのタイプ

 ◇締め切りを設けて具体的に

 2番目は、現状を把握して目標とのギャップを明確にし、タイムリミットを設けて解決する方法を考えるクリティカルシンキング。漠然とした目標を立てるのではなく、できるだけ具体的に締め切りを設けてゴールを設定する。「これができるかどうかで、その人のリーダーとしての在り方がよくわかる。意外とできていない人が多かった」

 ◇タイプに応じた対応

 3番目は、コーチングする相手がどんなタイプかを知り、それに応じた接し方をするということ。コーチングには「タイプ分け」という考え方があり、その人の自己主張と感情の表し方によって、大きく四つのタイプに分ける。

 相手のタイプがわかったら、承認のし方も変える必要がある。特に、ほめる時。

 主導権を握って何でも自分で判断してやっていくコントローラータイプには、ほめても効果がない。やることを邪魔せず、枠を外れないなら好きにやらせる。人に影響を与え、自分を表現したいプロモータータイプは医師に多いが、「お前、すごいな」と大きくほめる。

 正確さを重視するアナライザータイプは事務系に多いが、「データを積み上げて、ち密に結果を出したね」などと具体的にほめる。協調性の高いサポータータイプには「みんなと協力していい方向に向かっているね」など、相手の心にささる褒め方を心がける。

講演する長堀薫院長

講演する長堀薫院長

 「それまでは相手がどんな人か分かっていても、それに対して個別に反応していなかったと思います」と長堀院長。長堀氏にコーチングを勧めた看護部長からは、「ふだんの会話でも人の話をよく聞くようになり、職員との会話の間合いがずいぶん変わった」と評価してもらえるという。

 ◇院長はみな不安

 昨年6月に札幌で開催された第20回日本医療マネジメント学会では「コーチングによる病院長のリーダーシップ再開発」というテーマでセミナーの講師を務めた。

 「こんなテーマで聞く人がいるのかなと思っていたら、200席以上が満席でした。自分のリーダーシップに不安を感じている病院長は多いのではないでしょうか」

 長堀院長がコーチングを学ぶのに費やしたのは半年間で100時間ほど。「今はとてもそんな時間は作れません。よくそれだけの時間が捻出できたと思います」と振り返る。長年かけて形成された性格はそう簡単に変えられないが、コミュニケーションの方法を変えるだけで、組織全体が変わることを学んだ。(医療ジャーナリスト・中山あゆみ)

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